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第7話 没落令嬢と【死の行軍】


「そーれぐるぐるーっと……よし、完成!」


 思いついた物をレシピに照らし合わせるのと必要な素材の調達に時間を食った程度で、頼まれていたものはけっこう簡単にできた。

 空いた時間でちょっとした秘密兵器を作っているのが今だ。

あるに越したことはないからね。


さて、あとはアルを待つばかり……と思っていた矢先、扉からノックの音が聞こえた。


「はいはいー、どうぞー」


「リーズ、必要なものはできたか……ってまあその顔を見たらうまく行ったんだな」


「もっちろん!」


アルへ返してあげると、そうこなくっちゃとばかりに、にやりとしていた。


「それで、どんなの作ったんだ? 早く見せてくれよ」


 アルは部屋に入ってくると、あたりをきょろきょろ見回しだす。

 その様子はなんというか、ワクワクしてるってカンジがこっちまで伝わってくるようで──。


「そんなに楽しみだったの?」


「そりゃな、β時代の生産職はどいつもこいつも早々に諦めたか、すぐに囲われちまったからな……ノラでやってる奴なんかもういないって言われてるくらいさ」


「え……それってつまり、私はいわゆる絶滅危惧種ってこと?」


「そりゃもう、とびっきりのツチノコくらいのな──」


ほう、それはそれは……いいことを聞きましたなあ。

つまりこのインフィニティ・フォークロア・オンラインの世界における生産の界隈は上位のプレイヤーたちによる情報統制が敷かれてるってことだ。


ってことはそれ以外、NPCに中堅下位ほとんどの販路が未開拓のブルーオーシャンってコト!

いいじゃんいいじゃん──錬金術を使ってお金を稼ぐ、そのイメージがはっきり現実になってきた!


「おーい、早く出発しなきゃだからあまりじらすなよ……」


 っと、閑話休題。

 まずは後々の商品たちに付加価値をつけてやらないと。


 アルが探しているモノはいま私が身につけている。

 いちいち仕立て屋で買うのが嫌だったから、服を作るのに必要な布がないのよね……


 というワケで。


「その前にさアル、ちょっと貸してほしいモノがあるんだけど」


「ん? パーティ組んでるんだから協力するのは当たり前だろ、何言って」


「服」


「ああ……は?」


 反射で頷いたんだろうアルの表情が一瞬で固まった。

 何言ってんのお前って感じで口をパクパクさせてるけど、私は大まじめです失礼な。


「その服、ちょーだい☆」


「ごめんちょっと何言ってるかわからない」


 そんな失礼なアルくんに、あくまでフレンドリーになるようにとーってもかわいらしくいってあげたんだけど……こいつ、理解できないものを見たってカンジに顔をしかめやがって!


「布がないのよ、だからあんたの服を素材にして直接変えてあげる!」


「失敗したらどーすんだそれ!? これちょっとしたレア物なんだぞ!?」


「自分の服はできたんだから失敗しないわよ! そーやって悪い方向に考えるから変なスタイルに目覚めるんでしょうが! 友達にバカにされたくないんでしょ! だったら恥は捨てろ! 前を向け! そうすりゃ私が男にしてあげるわよ!」


「……はあ」


いよし、押し切った!

アルは盛大にため息をついた後、いそいそコートを脱ぎ始める。


「……失敗するなよ?」


「まあ見てなさいって」


というわけで調合スタート。

アルの着ていたショートコート、【深蒼の学士服】をポイっと釜に投げて……ちょっとかっこいいわね、これ。


アイテムボックスから取り出しますは、【蒸留水】【樹液】【スライムの粘液】の三つ。

これらを釜に入れて、調合開始!


「【スーサイド】、オン!」


 しばらく釜をぐるぐるすれば、アイテム完成!


「どーよアル! これが私の火山対策その1、その名も【リキッドウェア】よ!」


服の繊維を、常に湿っている【スライムの粘液】と【樹液】でコーティング。

そこに蒸留水を入れれば繊維が吸収して、中に水が溜まってる服の出来上がりってわけ。

繊維の中にしみ込んだ水は樹液のコーティングとぷに玉で蒸発しないから──あとは魔法なんかで凍らせるだけで、【焦熱】対策ばっちりの耐熱服になる!


「多分!」


「多分!?」


「そりゃあまあ、理屈っぽく言ったけど釜でぐるぐるするだけですし。 そういうイメージでやったってだけだから」


「だいぶふわふわしてんなあ、大丈夫か……?」


 大丈夫大丈夫!

 錬金術士リーズさんにスキはないのよ!


「前もって教えてくれたおかげで、対策アイテムはまだまだあるからね! 凍らせるための道具とかもばっちりよ!」


「まだまだって、お前【過労】は? 一度なったら5分は動けないはず……」


 あー、それはね……

 苦々しく語りますは、初めて死んだときに覚えてしまった【デスマーチ】。

 あれを詳しく見た時の私の心境は複雑なんてもんじゃなかったわ。


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【デスマーチ】

※常時発動

【スーサイド】発動中、状態異常を無効化する。


 条件:【スーサイド】の効果で死亡する


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「ってわけでして……」


【過労】もまた状態異常なので、限界を超えるまで心行くままに調合ができるようになってしまったのです……。


「うう、こいつらどこまでも私の命を握ってくる……! なんなのよもー! ブラック社員かよ私はよー!!」


「落ち着け、落ち着けよリーズ! ほら、ええっと……頑張れ!」


「慰めのつもりかーー!!」


【スーサイド】【デスマーチ】それに【強欲】。

 スタミナ極振りと無駄にかみ合ってしまったこのスキルたちが、いまの私にとっての最大の敵なのかもしれない。


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