「……はあ」
ヘッドギアを外した私はそのままベッドに転がり、枕に顔をうずめていた。
え、いつも間にゲームやめたのって?
過労死から復活した私はその足で、なんとゲームからたたき出されたのです。
「お腹すいた……」
原因は多分これ。
調べたらこのVRヘッドギアは安全装置がついてて、極度の空腹だとかを脳波から感知すると、キリのいいところでゲームをやめさせてしまうみたい。
おかげさまでリスポーンからどんなアイテムがロストしたか見れずじまいとなってしまった。
ゲームに戻ろうにも戻れないし、もやしを炒めるのもおっくう。
だったらカロリーバーで空腹を紛らわせながら、攻略掲示板でもみてアルに頼まれた物をどう作るかって考えてたんだけど……
ぐぎうううう……―――
とまあ。
想像以上にお腹がすいていたらしく、妙案が出てこない。
「お水のんでごまかすか……」
もちろん、火山の攻略を諦める気はない。
けど、私の中じゃ「熱い」を防げるのは「冷たい」だし、「冷たい」といったら「氷」だ。
モチロン、ただ氷を持って行ったんじゃすぐ溶けちゃうし……
「リサさーん、いますかー?」
さて、どうしたものかと思ってた時。
家のチャイムと一緒にあの子の声がした。
「流子ちゃん」
扉を開けばそこには私の肩に届かないくらいの、胴着を着た子供が。
少しだけ青っぽさのある黒髪を二つ分けのおさげにした女の子がいた。
名前は
この近くの剣道場の子。
何を隠そう半年前に家を抜け出し、行き倒れた私を拾ってくれた天使のような女の子なのだ! ちなみに小6! 変態さんの界隈だったらマジ天使!
「稽古終わったの?」
「はい! 今しがた終わったので、それで――」
正直この子とその家族がここの付近のことをいろいろ教えてくれなかったら私は死んでいた。
剣道の道具の修理だとか、手ぬぐい作りのお手伝いでほんの少しだけどお金をくれるし、
「母がおなかすいてませんか? とこれを」
「マジ!? ありがと~~~!!」
たまにこうやって食べ物を余分に作って分けてくれるのだ!
いやあ、野菜炒めや肉じゃががほとんどだけど、本当に至れり尽くせりです!
テキトーに考えた偽名で接してるのが本気で申し訳ないくらい!
「いやーお腹減っちゃって減っちゃって!」
「生活が乱れてますよ、リサさん」
「うぐ……」
「生活の乱れは心の乱れも体の乱れも同時に作ります、よくないです!」
「うう、手厳しい……お姉さんも頑張ってるんだよ……」
心をえぐってくる流子ちゃんの言葉によわよわしく返すと、
「リサさんはその頑張りを人に見せようとしないじゃないですか。 この間だって黙って穴の開いた胴着を何枚も直そうとしてたし」
「いや、まあ……へたくそで恥ずかしいしさ」
押しが強いけど、しっかりとした子なんだよね。
毎度毎度こういうやり取りをしているけど、そのたびに私ってけっこー、いやかなーり甘やかされてたんだなあと思う。
家を取り返したら、誰かにいろいろ聞いてみようかな……大掃除の仕方とか。
「というわけで、悩みがありましたら何なりとお尋ねください!」
「へ? でも」
「でもじゃないですよ、貴女が腹ペコなときは何かに入れ込んでるときです、それでお体を壊したら一大事ですもん」
「……たはは」
流子ちゃんにはお見通しか、まいったなあ。
しかたないので今悩んでること、暑くても溶けたりしない、冷たいもののことについて話してあげる。
それがゲームのこと、っていうのは伏せた。
流子ちゃんすごく生真面目だから、餓死ぎりぎりまでVRゲームをしてたなんて知ったら、はやくたべてねなさーい!とか怒りかねないし。
「冷たい氷ですか?」
「そう! あっつーい場所でも溶けにくいものが欲しいの! 何かいいものないかな?」
「むつかしいですね……」
むう。
やっぱりゲームのことはゲームで探すしかないかな……そう思っていたら、
「そうだ!」
そういって急に手持ちのビニール、私に渡そうとしていたご飯入れをとりだした!
「流子ちゃん!? それ私の……」
いや正確には私のじゃないけど……という前に彼女は白くて四角いものを取り出し、私に見せてきたのだ。
「こちらどうでしょうか? 保冷剤なんですけど」
「……へ?」
「溶けてなくなっちゃうのがマズいなら、こういう物の方がいいかなって──」
「それだーーーーーー!!」
絶叫一発!
流子ちゃんが言うが早いかという時に、私は思い切り彼女を抱きしめた!
「り、リサさん!? ちょっ、くるし」
ひらめいた! 今ひらめいた!
そーかそーか、何度も凍らせて使えるんだからこっちの方がいいじゃん!
カギは水と布と、後はドロドロしたもの!
これを調合できれば、【焦熱】もコウモリも怖くない!
「ありがとーー流子ちゃん! ホントありがとーーーー!」
よーし! いいアイデアも出たしやるぞーー!!
「ふへえ……」
いつものようにえいえいおーと掛け声を出そうとしたときだ。
私の拘束からはなれた流子ちゃんがゆらりとよろけてそのままぺたんとしりもちをついてしまったのである。
「ちょっ、流子ちゃん!? 流子ちゃーーん!」
その後私は思い切り抱き着いてしまったせいで酸欠になったんだと気づき、へそを曲げてしまった流子ちゃんに許してもらうのに必死で謝る羽目になるのでした。