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第4話 没落令嬢とアルフォンス


「これで、最後!」


アルフォンス……アルが来てくれたおかげで、作業はすいすいと進んでいった。

掃除なんか慣れたモンだとばかりに、重そうな棚もすいすいと運んでいく。

ついでに箒や雑巾も見つけてくれて、汚れを見つけてはゴシゴシしてくれた。

いやー、ホント便利で一家に一台はって感じの活躍だわ。

……本来なら私がそーゆーふうに能力とか割り振るべきだったんだけどね?


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 素材【紙くず】獲得!

 素材【割れたガラス】獲得!

 素材【スライムの核】獲得!

 素材【産業廃棄物】獲得!

 素材【燃えカス】獲得!


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ちなみに私は、ゴミの中に混じってる素材を集めながら、そんな彼の様子をちらちらと見ていた。

 私から見たアルは別段変な事をしてないけど、やっぱり釈然としない。


「どうして手伝ってやろうなんて気になったの?」


 本当にただやりに来たって感じ。

 なんでわざわざこんなことを? って考え始めると、どーしてもわからない。

 少なくとも錬金術士じゃない。

 さっき言った通りお金とか欲しがってなさそうだし、クエスト報酬も錬金術士じゃないなら絶対に要らないものだ。


「……あー、いや、まあな?」


すっごいバツが悪そうなカオしてる。

そうしてアルはある種の決心をつけたのか、ため息をついてからメニューの操作を始めた。


「リーズにステータス開示、っと」


 アルがそういうと、こっちの目の前にステータス画面が現れた。

 ……コレ、他人に見せれるんだ。


 〜〜〜〜〜〜Status〜〜〜〜〜〜〜


 アルフォンス


 レベル:14

 Next……3682exp


 職業:魔法剣士

 属性:土


 スタイル

【臆病者】


 スキル

 インパルス クラッシュピラー

 危機回避 危険予知 とんずら 魔剣使い 剣の資質・土

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「これがなんだってのよ」


「臆病者ってあったろ? モンスターを無視して町に来たら、スタイルに目覚めてこのありさまってわけだ。 少ししたら連れと一緒にダンジョンに潜ろうって約束してて……そん時にこんなスキル見られたらいやだろ? どんなプレイしたんだお前って笑われる」


「だから別のスタイルに変わることを祈って、親切そうにしてたわけ?」


「そういうこと。 とはいえこのチョーシじゃあ、いつになることやらだけどな」


 それまでやってきたことに応じてスキルに変わるっていうのも、なかなか考え物ね。

 私も気持ちはわからなくはない。 友達がもし目の前にいて【臆病者】だの【強欲】だのだったらうわぁ……ってなるもん。


 ……まてよ?

 私もアルもやらなきゃいけないことがある。

 けどそのためにはバトルスタイルで目覚めた変なスキルが邪魔で困ってる。

 長い目で見ればどうにかなるけど、期限が許してくれないっていう状況だ。

 これは……


「いーことかんがえた……」


「おっと、早くしねえとホントに間に合わなくなりそうだ……んじゃあ俺は」


 がっ!

 用が完全に済んで、その場を去ろうとするアルの肩をつかんだ!


「なんだよニヤニヤして……」


「ねえ、アル……未踏ダンジョンの攻略にキョーミない?」


 *


 その後、立ち話もナンだからと工房にアルを招いた私は、ピカピカになったテーブルと椅子に腰かけた。


「ファラを出し抜いてイグニール大洞穴を攻略する……本気で言ってんのか?」


「本気も本気! 私はダンジョンの対策アイテムを作って洞穴を攻略する! あんたは私を護衛して別のスタイルスキルをゲットする! まさしくwinwinってやつ!」


相手は難攻不落の火山ダンジョン! 今までβプレイヤーが何人も挑んで返り討ちになるのを繰り返してきたわけだから、知名度はじゅーぶん!

 そんなところの対策になる道具を売り出せば、いやでも目についてお金が舞い込んでくるはずだわ!

 素材も拾って売りに出せばかなりの値が付くかも!

うーん、どっからどう見てもスキのない完璧な作戦! 我ながら恐ろしいわ!


「やめとけ」


「……はい?」


 1人で舞い上がっていたところに、アルは水を差す。


「釜があるってことはお前、錬金術士だろ? 生産職に攻略は無理だ」


「ずいぶんはっきり言うわね、まだやってもないのに」


 アルの物言いに返してやると、本人は盛大なため息。

 なんかバカにされた気がしてちょっとむかつく!


「やったから言ってるんだよ。 βテストのとき、連れに誘われて行ったんだ」


「マジ!? どうだった!?」


「きついなんてもんじゃない。 二人ともスタミナを切らしてばったりだ」


「……」


「奥に行けば行くほどどんどん熱さが増して、スリップダメージが重なっていくのも面倒なことこの上ない。 動くたびにHPが削れるうえ、モンスターも当たり前にいる」


「…………」


「装備のそろってないときに無理して挑むダンジョンじゃないよ。 ましてやお前は生産職だからな、おおかた器用さと運に厚く振ってて、戦闘なんかこなせないだろ」


「ステータス、アルに開示」


 アルの言葉を遮りながら私はスケスケウインドウを呼び出した。


「…………」


 すると面白いくらいにアルが黙りこくった。

 そうしてウインドウと私を何度も見比べるもんだから、軽くウィンクしてあげると、震えた声でつぶやいたのだ。


「お前……バカじゃねえの……?」


「むっ!?」


「これでなんで錬金術士名乗ろうと思ったんだよ、薬はおろか蒸留水すら作れないんじゃないか……?」


「大丈夫よ、錬金術は器用も運も参考程度にしかならないってネットに載ってたもの!」


これでも前情報は目に穴が開くほど読んで、その上で決めた能力配分だ。

そりゃここまでいろんな想定外はあったけれど、ステータスに載っていたことだけは正確だったもの、さすがに間違いはないはずだわ。


「でも、実際にやってみたわけじゃないんだろう? ……多分無理だと思う」


「なら今からやってやるわよ!」


 実際に書かれてたことだから大丈夫でしょ!

 私のスタミナ極振りにあきれ果てているアルの前から離れ、私はかき混ぜ棒と蒸留水に必要な素材を手に取り、釜へと突っ込んだ――!


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