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第2話 没落令嬢とむなしい音



「わ・す・れ・て・た〜〜〜〜〜〜!!」


 不動産屋に戻ろうとして30歩。

 そこで借金するにしても頭金が必要だった事を思い出した私は、石畳の上で頭を抱えて唸っていた。

 慌ててステータスの所持金を見直しても、そこにあるのは街道までで手に入った8000エンのみ。

 なら街道で、と思ったけど私が戦ったモンスターといえばマジックポットとかいうレアモンスターだ。


「いつでるかわからないモンスターなんて探してたら、ファラに先を越されちゃう……」


 多少能力が伸びたとはいえ、一回一回戦うたびに回復しなきゃならない現状じゃあ、効率が悪すぎる。


「あーもー! どーしたら……!」


 まて。

 かんしゃくを起こすにはまだ早い。

 どっちみち嫌で嫌で嫌で嫌で仕方ない借金をしなければ家を買えないのだから、せめて少しくらいは頭を使わなきゃ。


「ステータス!」


 詰まった時はものを広く見るべし。今こそマルジンさんの言ってた言葉を試すときだ。

 声に合わせてリストが目の前に現れる。

 そこからアイテムと書かれた欄に触れ、謎異次元こと、アイテムボックスを開示させると。


「うわぁ……」


 草草土貝がら草水土虫クモの巣ツボ。

 今まで拾ったアイテムたちがずらりと並ぶメニュー……よくもまぁこんなに溜め込んで。 ここから価値のあるアイテムを探すのは流石に骨が折れるけど……ええい構うものか!


「骨が折れたところで心は折れません! よし、やるぞお!」


 どれがどう売れるのかわからない以上は上から下までしらみつぶしだ!

 錬金術のスキル【理解】の力で、アイテムのことは隅々までわかるもんね!

 前以外を向くな!

 アイテム勉強のついでにお金稼ぎだ! わーいオトク!


 というわけで、えいえいおー!


 *


「見つけてしまった……」


 そこから何十分か経った頃。

 実体化させたものを手に取り、苦々しい思いで情報を開示させる。

 どうか間違いでありますようにと、じっくりとっくり再確認する。

 なんでこんなに残念そうなんだって? そらそうよ、だって――――。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【 I・クリスタル 】


 Lv 30

 品質 91

 属性 なし

 カテゴリ 宝石・魔法の道具・神秘・装備品・加工物

 入手方法 不明

 売値 300,000エン


 大昔から伝わるクリスタルを加工したふしぎな遺物の一つ。

 アイテムを内部に封入させることで、スキルとして使うことができる。

 遺跡でごく稀に出土するが、詳しい製法は判明していない。


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 30万エン。

 不動産屋さんが頭金と言っていた5万エンを飛び越え、そのまま家をまるっと買えちゃうお値段。

 そんな大金がこれ一つ売り払えば手に入る。手に入る……。


「いやダメダメダメダメ!」


 四角錐に伸びたクリスタルのネックレスを手にしながら、私は大きく横に首を振った。

 そもそもこれマルジンさんからの貰い物でしょうが! 錬金術士の自分なら使いこなせるって言って、くれたもんでしょう!?


「というか効果つっよ! これ人権アイテムってやつじゃないの!?」


 効果の強い薬とか爆弾とかこれに入れたら、スキル扱いでいつでも使えるんでしょ!?

 なんでこんなもん私に渡したのマルジンさん!? 掛け値なしに本当に期待してくれてたのかな? それはそれでちょっとうれしい! ありがとう!


「……そうだよ、やっぱり人の期待を裏切ってまでお金稼ぎは――」


 はたとそこで私は動きを止めた。

 もし、このまま家を買えずじまいになってしまったら。このまま悪い方に転がってしまったらとついつい考えてしまったからだ。


「うう……」


 家を買えなかったらどうなる?

 釜がないから錬金術が使えない!あのタカビシャ女の鼻を明かせない!


「ううう……!」


 錬金術が使えなかったらどうなる!?

 モノを売ることができない、生産クエストができない!

 本来やりたかったお金稼ぎができないでずっとこのまま毎日もやしの女の子のまま!


「うううう!」


 毎日もやしの女の子はどうなる!!?

 本来だったら花咲くJKな私は今育ち盛り! そんな時に三食もやしなんて続けてたらカクジツに栄養失調で死ぬ!

 パパもママも不幸なままに殺すどころか、【借金かかえさせられて現実逃避にゲーム初めて毎日もやし食って死んだ中卒の女の子】とかいう不名誉な伝説を作っちゃう!


「うううううう~~~~!!!」





 ちゃりーん。


「毎度ありなんだなー! お金をどこから持ってきたか知らないけど、これでこの家は君のものなんだなー! ところでなんで泣いてるんだなー?」


 ごめんなさいマルジンさん。

 私はお金のために人権を捨てました。


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