「皆さま……この世で最も美しく、気高く、強いのはだあれ?」
「何言ってるのあの人?」
「あいつの動画の入りはいつもこうなんだ」
入りってことはこれ、公開収録って奴なのね。
すると前もって台本でも配ってたのかってくらい揃った声で「YES! ファラ様!」と響いてきた。
その一心同体ぐあいには驚く。
これ全部サクラじゃないのよね……ただのファンってこんな一体化するもんなの?
「ご機嫌よう、私の可愛いシモベたち! 私の邸宅へようこそですわ!」
「むっ!」
なんじゃそりゃ。私たち令嬢はそんなコッテコテなセリフを使いません!
もっとフツーですよ! ふっつーにおはよっ、みんな! ですよ!
「おい、変な騒ぎは起こすなよ?」
「だってー……」
私とイケメンがコソコソ話しているのを知らずに、ファラって人はその後もペラペラと喋り続ける。
「今回は録画機材の点検を兼ねて、新しい動画の告知をしようと思いますの。 シモベでしたらもちろん最後まで聞いてくださいますよね?」
「もちろんですともーーーーーー!!」
「あん!?」
そんな遠回しなオドシ文句もイマドキ使わないわよ!
ちょっと甘えたな声で聞いてほしーなー! ってチラチラ見ながらいうんですよ!
プレゼントとか欲しい時、パパにそんな感じで頼んでたもん!
「お前はさっきから何に怒ってるんだ……」
イケメンはそんな私を見てため息をついてた。
「そりゃ怒るわよ! だって私……もがっ」
「まて、取り巻きが見てる」
イケメンに口を押さえられたところで、ようやく私はわれにかえった。
あぶない、今私が令嬢っておもいっきり言っちゃうところだった!! どこから見てるか正直わかんないけど、とりあえずありがと〜〜〜〜!!
「何に怒ってんのか知らないけど、ここで騒ぐのはやめとけ」
「……もんもご」
なんでよ? と抑えつけたイケメンに聞いてみれば、耳打ちで返してくれた。
「さっきの見てただろ、ファラのチャンネルは信者がめっちゃ多くて、半ば宗教みたいになってんだ……βテストのときもトラブルが何度かあってな、とにかくなにされるかわかったもんじゃない」
「もごっ……!?」
動くのをやめたと判断したイケメンは私をようやく解放してくれた。
「トラブルって……運営さんは注意したりしないの?」
「あからさまなのには対応して、町中の戦闘行為はイベント時を除いて禁止になったはずだけど、それ以外は規約にもかかってないからなかなかな」
「ずいぶん好き勝手やってるのね」
「さすがに本人もよくは思ってないだろうけど、まあ気を付けるに越したことはないわけだ」
その時だ。
ファラのいる方から、いくつかのどよめきと歓声が上がった。
「長々と皆様の足をお止めするわけにもいきませんのでそろそろ本題に移りましょう! 私の次なる目標、それは【イグニール大洞穴】の攻略ですわ!」
というのも、ファラがびしぃ、と指をさす決めポーズをとりながらそう宣言したから。
その台詞で回りは口々に、
「な、なんだってぇーー! イグニール大洞穴!?」
「イグニール大洞穴っていやあ、火山区域の頂上にあるあれですか!」
「大丈夫ですか!? あそこはβ時代でも難攻不落! とうとう一人の踏破者も許すことのなかったダンジョンですよ!」
とまあ、存分に情報をしゃべってくれる。
本当にサクラとかいないよね?
「おーっほっほっほ! 心配には及びませんわ! 私は前々からリリース直後にはあそこを、と狙っておりましてひそかに情報を集めておりましたの! 準備ができ次第出発し、私がかの不敗神話に幕を下ろして差し上げますわ!」
ファラは自信満々にそういってまた高笑い。
そして拍手喝采!
「ふんっ」
どこまでもコッテコテの悪役令嬢だこと。
きっとあーゆーカンチガイ女とその取り巻きがいるから、巷の令嬢やお坊ちゃんは悪役ってイメージを持たれ続けるのね。納得だわ!
本物はもっとこう、甘え上手で、余裕があって、奔放だけど周りの空気を読める……そういう心のおおらかな子なんだから!
よし、決めた!
火山のダンジョンを最速攻略して、あのタカビシャ女の鼻っ柱をへし折ってやる!
「ファラはイグニール大洞穴か……なら先に――」
なんか変な声したけど、たぶん気のせい!