公国城下町リヒターゼン。
城付近を取り囲むように作られた街で、爵位のない……要はエラくない人や流れ着いた旅人が暮らしている、この大陸で最も人々の交流の多い町だって雑誌に書いてあった。
貴族からビンボー人まで住んでいる……つまり【錬金術士】の力がフルに活かせる場!
洗剤を作って主婦に!
材木を加工して一家のお父さんに!
爆弾や薬を調合してギルドや冒険者に!
アイテムを作って売り込んでいけばお金が貯まりほーだい!
と、思ったんだけど……。
「吾輩はこれから門番どのとお話をしますが、馬の番を任せてよろしいですかな?」
「うう、ちょっと無理かも……」
「ほっほ、仕方ありませんな……まあただの手続きですので馬ごとでも許してくださるでしょう」
さっきの戦闘から、体が重くってまったく動ける気がしない……!
理由は間違いなく【スーサイド】で魔法を撃ちまくったから、確認したらHPも残りたったの2、そりゃこうもなるわ。
戦い方は見つかったけどまだまだ改良の余地がありそうね……このままじゃ身がもたない。
「……そうだ! ステータス!」
さっきまでに手に入った60ポイント、全部スタミナに振ればあるいは……!
〜〜〜〜〜〜Status〜〜〜〜〜〜〜
HP:62/190(+160)
MP:40
スタミナ:120/180(+160)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お、おお!
やっぱりここはゲームなのね、最大値が増えた分HPが加算されて、重かった体も軽くなってきた!
そのかわり、もう二度と他のステータスにうつつを抜かせなくなっちゃった。
なんだかスタミナに生殺与奪を握られたようでフクザツ……。
「お嬢さん、そろそろ城門を抜けますぞ! お体は平気ですかな?」
「うん、大丈夫!」
それは良かった、とマルジンさんは朗らかに笑いかけてくれた。
この人がいてくれなかったら町に行けなかったもんね。スーサイドのことも気づかなかったかも。
「だからお礼ちょうだい!」
あ、報酬はいただきます。
ええわすれてませんとも、慰謝料も含めきっちりいただきます。
仕事というものは得てして残酷なのです。
借金で差し押さえられたのだって、その延長……
待ったなんて通用しないまま全部差し押さえられて、うう……って、だめだだめだだめだだめだ気分が悪くなる!
「報酬ですか……そうですなあ……」
「はぐらかしちゃダメよ!」
ブリッツに必要なMPは8だから、スーサイドで7発、普通に撃っても5発出る計算。
それだけあればマルジンさんなんか余裕で黒コゲにできる……ちょっとどうかと思うけどね!
「むむ、なんか反故にしたらロクでもない目に合いそうなヨカン! いいでしょう、ならばこちらをお渡ししましょう!」
……ちょっと露骨すぎたかな?
何か白くて細長いものが手渡されそのまま謎の空間へ、そして……
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アイテム【リバースドール】獲得!
装飾品【 I・クリスタル 】獲得!
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二つのアイテムがスケスケウインドウに表示された。
「両方とも貴重なもの、大事にお使いくだされ!」
「え、いいの? 首から下げてたものでしょう?」
「錬金術士である貴女だから良いのです! このクリスタルはアイテムを一つだけスキル扱いにできるたいへん便利なものですが、うまく使えず困っておりましたので! それに」
「それに?」
「貴女への友好の証を兼ねて、と―ご活躍をお祈りいたしますぞ、錬金術士リーズどの」
トシガイもなくウインクしてから、マルジンさんは馬車の先へ向かっていき、
「さあ、行きますぞー! はいやー!」
「ヒヒン!」
そしてそのまま何事もなかったかのように城壁の通路を馬車で走りだしたのだ。
すごいなあ、ハの浮くような言葉ってこんなに流れるように出せるんだ。
これが本職のセールストークってやつなのかな、私なんか今、ちょっとうれしすぎて言葉が出ないのに。
「さあご覧くだされリーズどの! ここがバザルト公国の城下町、リヒターゼンですぞ!」
そうして門を抜けた先に待っていたのは……!
「ふああっ……!」
驚きすぎてちょっと変な声出しちゃった!
だってよくあるラノベでいう異世界、あれとそっくりな風景が今広がってるんだもの。
和洋中いろんな格好をしてる人らはプレイヤーなんだろうか、NPCなんだろうか。騎士も侍もピエロみたいな人もいて、それぞれが会話をしている。
少し進んだところの広場も見事なもの。
水の一滴さえも鮮明に映る巨大噴水が馬車を出迎えてくれた。
「本当に世界が生きてるんだ……」
ぴろーん。
そうして「世界」に浸っていたところを一つの音がぶち壊しにした。
目の前で勝手にウインドウが現れ、あることを告げてきたのである。
「なになに……スタイル開眼? 貴女の経験と実積が、【バトルスタイル】を新たなスキルに変化させました?」
そして始まるドラムロール。
バトルスタイルと言ったら最初にもらった謎のスキルだ。
確か専用のスキルに変わるのよね。
なんともまあ幸先のいい。これはまわりに大きな差をつけられそう!
……と。思っていたら。
「な、なんですってぇぇぇぇぇええ!!?」
「ひょわあ! いきなりなんですかな!?」
通りがかった広場のど真ん中で、私の絶叫が響き渡った……。