「いやはや、助かりましたぞお嬢さん! 最近このあたりにもモンスターが出はじめているとは聞いていたのですが、何分急いでおりましたもので!」
その後、私は初めての勝利に浸る余裕もなく、逆にやたら元気になったおじさんの話を聞いていた。
「急いでたって、何か運んでたりしたの?」
そういえばアキナイの帰りでどうたらといってたような気がする。
もしかしてこの人……とぼんやり考えていたら、うおっほん! と元気よく咳払いしてから、
「吾輩これでも商人でしてな、この大陸をまたにかけ交易をしているのですよ。 マルジン・ドライアスといえば、少しは知れた名なのですが、ご存じでないですかな?」
「マジで!?」
「マジですともマジですとも! 今はヘングストというところから肉を運んでいるところでしてな、あまり長居はできませぬが、サインくらいならばできますぞ!」
「あ、えっと……」
芸能人やスポーツ選手ならいざ知らず、ちょび髭おじさんのサインもらっても……
だけどこれはラッキー! 勘違いしてテンションが上がってるおじさん、マルジンさんは商人だった!
ここまで急いできたなら馬車の一つでもあるはずだし、馬車があるなら……!
「マルジンさん! さっきのお礼の話がしたいんだけれど……」
*
「はいやー!」
さて、と。
馬のいななきと時折振るわれる鞭の音を聞きながら、私は腕を組んで考え込んでいた。
「む~……」
ここは城下町へ続く街道を走る、馬車の中。
マルジンさんに護衛として馬車に乗せてもらい、一緒に城下町を目指すことにしたの。
ここまで来たら報酬をできる範囲で釣り上げたいし、ちょっと考えなきゃいけないことができたから、そのためにね。
「ステータス」
ウインドウを開いて自分のステータス、HPの欄を見た。
最初130あったHPが、今や3分の1程度だ。
「戦闘1回、しかも魔法1回で倒せるレベルのゴブリンでこれはマズいわよね……」
百聞は一見にしかずとはよく言ったもんだ。
VR世界のバトルっていうのが、こんなにも難しいなんて思いもしなかった。
フィールドやダンジョンには当然モンスターが出るし、ゴブリンなんかより強い敵はたくさんいる。
その都度アイテムや新しいスキルでどうにかするっていったって、素材を集めるためにはフィールドに出なければならない。
もしモンスターに出くわせば、魔力も敏捷もない私は簡単に倒されちゃう。
「今ここで割り振れば……」
もらえたステータスポイントはたったの5。されど5だ。
今すぐには無理でも、このあたりで少しずつ集めていければ多少はましになるかもしれない。
ただ……私がしたいのは一刻も早く借金を返すこと。
β勢よりも早く遠くにいってレア素材を集め、錬金術でアイテムに仕上げて売りさばく……そのためにスタミナ極振りなんてマネしてるのに、そんなチンタラしてていいの?
「あーーっ、頭が痛くなる……!」
「お嬢さん? 何か困りごとですかな?」
マルジンさんが、幕の外からこっちをうかがいながら話しかけてくる。
開いたところから赤光が入り込む。
「もう夕方なんだ……」
「太陽と月の位置は2時間ごとに変わりますからなあ……夜には着きますから、それまでゆっくりしてくだされ。 それと」
一呼吸おいて、マルジンさんは言葉を続ける。
「困ったときは、まず広くまわりを見るべしですぞ。 もしかしたら、単に答えを見落としてるだけかもしれませんからなあ」
「広く……わかった!」
幕がもとに戻るのを見てから、私はウインドウに向き合う。
ステータスだけじゃない、スキルやアイテムも見てみよう……【スーサイド】も【ブリッツ】も手に入れてから全然見てないもんね。
そして……。
「これだああああああああああああああ!!」
「でーーたーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「ヒヒンっ!?」
同時に響き渡った悲鳴。そして馬がびくっと立ち止まり、異常がわかった私は、ほろ馬車から【ヒールボトル】と杖を持って前方に飛び出した。
「今の悲鳴何!?」
「だっ、ダメじゃお嬢さん!」
マルジンさんが制しようとするけど馬車の先を見る。
見るけど……なんだあれ?
「ヒ……ヒヒ!」
ツボがくるくる回ってる……と思ったら紫色の小人がその中からにやりとしながら顔を出して。
ツボからジェット噴射みたいになんか出してこっちに突っ込んできた!
「イーヒヒヒヒ!」
「レアモンスターのマジックポットじゃ! ツボから魔力を噴射して高速移動する魔物で、強さはゴブリンの比じゃあありませんぞ!」
「レアモンスターって?」
「え、特殊なアイテムをドロップするのですが……って今は逃げるが勝ちですぞ!」
「強いけど倒せばイイモノが出るのね、ありがと! 薬借りるね!」
「え、やる気満々ですかなーー!? やめた方がいいですぞー! お嬢さんじゃ自殺行為ですぞー! あとどさくさ紛れに商品を使わないでくだされーー!」
「商品はツケといて!」
そうだね。まさしく死にたがりの所業。
だけど今はこれを試したくて仕方ない!
「【ブリッツ】!」
一息に薬を飲みほした私は魔法を発動させ、迫るマジックポットに杖を向ける!
「だからその程度の魔法では……!」
電撃の矢はマジックポットのツボに命中……したけど突進が止まらない!
「ダメです! 悲しいですがお嬢さん程度の魔力では、初期魔法の一発や二発ではたいして効きませぬ!」
「ヒーーッヒッヒ!」
割と失礼だな!
いいですよわかりましたよ!
で、あればどうするか!
敏捷の低い私はニブいから、攻撃は見る前に逃げるくらいじゃないと間に合わない!
だから、ここはHPで真っ向から受けて立つ……!
「【スーサイド】、オン!」
だけどそれは、ただただ攻撃を食らうってイミじゃあない!
「ブリッツ! ブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツーーー!!」
「な、なななんとーー!? クールタイムを無視して連続詠唱ですと!?」
「ヒーー!?」
これにはマルジンさんも、マジックポットも驚愕!
クールタイムってのがさっぱりだけど、私でもこのスキル本当に頭おかしいってわかるもんね!
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【スーサイド】
発動中、魔法およびスキル使用時のMP消費をHP消費に切り替え、クールタイムを減少させる。
取得条件:一回の戦闘でHPが半分以下になるまで相手から通常ダメージ、スキルダメージを受け、更に自傷ダメージを受けたうえで勝利する。
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正直このスキルを使おうって輩はまぬけか異常者だと思う!
でも悲しいことに私がそれだ! わざわざ極振りを選んだまぬけにして、このスキルを最大限使いこなせる資格を得てしまった異常者!
「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃーー!!」
けど私は一向にかまわない! なんとも思わない!
今のこの姿を見て笑われようと!
この先これのせいで何べん泥水をすする羽目になろうと!
私の夢がかなうんだったら! 私は―――!!
「私は、死にたがり(スーサイド)になってやるーーーー!!!」
「ヒギャアーーッ!」
絶叫とともに繰り出した電撃が、弾幕を浴びて弱り切っていたマジックポットに直撃。
小人はそのまま掻き消え、後にはツボだけが残された……!
って、ことは?
━━━━━━YOU WIN!━━━━━━
モンスターの討伐成功!
EXPを2500獲得!
レベルが13にアップ!
ステータスポイント55を獲得!
条件「1回の戦闘で雷属性魔法を10回以上唱える」達成! 【十雷】を獲得!
リーズの中で新たなる力が目覚めた!
錬金術【一の解・理解】習得!
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勝利を告げるウインドウが見えた瞬間、私は確信した。
いける! これならどこへでも……未踏の地でだって私は戦える!
「やった、やった、やったよーーー! あとは……れんきんじゅつで……」
あれ、なんだろう?
なんか頭が重くてぐわんとする。スタミナ十分で疲れてなんかないのに、ダメだ、全然力が入らない。
そしてそのヨレた勢いでしりもちをついてしまった。
「お嬢さん! ご無事ですかな!」
「マルジンさん……」
「ムリに魔法を撃ち続けたせいでしょうな……いやはや、ここまでパワフルなお嬢さんは見たことがありません。 立てますかな」
「ふへ……すみませーん、たてませーん」
「やれやれ仕方ありません、失礼ながらお運びいたしますので、馬車の中で少しお休みなされ。 城下町のリヒターゼンまでもう少しですぞ」
正直、どんな返事をしたか覚えてない。
けどマルジンさんの着てる服を改めてみると、なんか胸のあたりにきらきら光る何かがあって、
「そざい!」
「わあっ……こりゃ! やめっ、やめんか!!」
ちょっとした取り合いをしたのだけは覚えてる。
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装備【 I・クリスタル 】獲得!
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「勝手にとるんじゃありません! 人のものをとったらドロボウですぞー!」