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第1話 没落令嬢と白い世界


「……ありゃ?」


 私が次に見た光景は、一面真っ白でだだっ広い空間だった。

 いつの間にか意識がなくなっていたらしい。


 起き抜けでまた眠って夢を見ている……なんてことはないから、無事ゲームの世界に入れたってコトで、いいのかな?


「なるほど、君が来訪者か」


 一応ほっぺつねっとこうかなーと考えていると、渋い声とともにゆっくりと男の人が歩いてきた。


 精悍な顔立ちとがっしりとした灰色の鎧姿に、この空間じゃちょっと見づらいマント。どっからどう見てもTHE・騎士。

  雑誌でも紹介されてたその姿をみて、私はここがゲームの世界なんだと確信した。

 しっかし風も何もないのに中でぴったり止まっちゃって……ハリガネでも入ってるのかな?


「はじめまして、自分は――」


「アイン団長、よね?」


「ご存知だったか。 自分はアインソフ。 この国の騎士団で長をしている者だ。 至らぬところも多いが、な」


 お、おお……!

 すごいよ、今私ゲームのキャラと喋っちゃったよ!

 そういえば最新技術のAIが入っててどうたらこうたらって雑誌にも載ってたっけ。

 パパの会社もIT系だし、こういうの作ってたのよね!  科学の力ってすごーい!


「それで早速だが……どうした?」


「あっ、ああいや、なんでもないです! ハナシ続けて、どーぞ!」


 おっと、いけないいけない!

 科学技術に感動してる場合じゃなかったわ!


 私と同時に始めたプレイヤーも沢山いるんだから、ちゃちゃっとゲームを始めなきゃ!

「……そうか。 実は女神から、今日この日に現れる来訪者のことを詳しく聞くよう神託が下っているのだ。 差しつかえなければ、君のことを教えて欲しい」


「オッケー!」


 アインさんの言葉に二つ返事で返すや否や、目の前に薄くてスケスケなキーボードが現れた。

 何で女神様、そんな神託を下したんだろうとか細かいことは考えない。要はキャラクリエイトをしてねってことだし。


「君の名は、何というのだ?」


 私の名前、か。

 このゲームはアバターをリアルの顔や体型から自動で作るらしいから、バカ正直にリセにすると身バレしちゃいそうなのよね……。


 私にとって身バレはイコール死だから、変えとかないとね。


「リーズ、っと」


 どうせならイチからアバターを作りたかったなぁ。お肌の色を変えるとか、このつるぺたをどうにかするとか、リアルじゃできないオシャレもあるしさ。


 少し残念に思いながら、ほんの少しだけ本来の名前を濁したネームをつけた。


「リーズか。 では次に職業と使う武器を教えて欲しい」


 キーボードが消えたと思ったら、今度はスケスケウインドウが2つ現れる。

 左は剣士だとか騎士だとか……このゲームでなることが出来るのだろう職業がたくさん書かれたウインドウ。


 右には武器の羅列。その量たるや、通りいっぺん見るだけで片手剣短剣杖弓斧槍ハンマーは勿論のことハタキにカードにジャマダハルetc……とよくもここまでと。ハタキやカードはまあ良いとしてジャマダハルってどんな武器よ?


「難しい顔をすることはない、大半の職業には覚えもあるから、私でよければ相談に乗るぞ?」


「大丈夫です、前々から調べて決めてましたから! 時間もたっぷりあったし!」


 ジャマダハルの謎に迫ろうとしていた私にアインさんは申し出てくれるけど、それは丁重に断わった。ごめんね、このゲームが届くまでに全部決めちゃったんだ。


「職業は錬金術士! 武器は杖でお願いします!」


 錬金術士はアイテムを作れる生産職。

 作れる物の幅広さがウリで、回復薬はもちろん、爆弾、合金、はては家具なんかも作れるらしい。

 フィールドで素材を集めてアイテムをたくさん作って、必要としている人に売ったり、自分で使ってクエストをこなしていけば、材料費はほぼタダだもの、お金もどんどん溜まっていくハズだわ!


「戦いには向かない職だが……平気か?」


「大丈夫、これで天下取ります! 女の子に二言なし!」


 確認してくるアインさんに親指をぐっ、と立てて返してあげる。

 錬金術士は生産がメインで、攻撃用のスキルはあまり無いからふつうの戦いに向いてないんだけど、私の戦いには心強い限りなのだ!

 心配してくれて嬉しいけど、変えるつもりは毛頭ございません!


「男に二言だと思うが……了解した。 ならば最後に女神からの餞別だ」


諦めたようなアインさんが言い切ると、今度は足元から淡い黄色の光が上りだし私の体に入り込んでいった。

そしてちょっと気の抜けるファンファーレが鳴り響いた時、





 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 初ログイン! ボーナスポイント100進呈!


 条件「武器選択で魔法武器を選ぶ」達成! スキル【魔導の才覚:雷】を獲得!


【魔導の才覚:雷】:雷属性の魔法を使えるようになる。



 条件「職業:錬金術士を取得する」達成! 【釜調合】【素材発見】を獲得!


【釜調合】:特定のアイテムを使って調合が行えるようになる。

【素材発見】:フィールドにて素材アイテムを発見できるようになる。



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 とまあこんな感じでメッセージウィンドウがあらわれた。


「女神の加護としてスキルとステータスポイントの二つが君に宿った、ほかのスキルは条件を満たせば手に入るから、好きな組み合わせを試してほしい」


 ほうほう。でもこの程度ならロクに見なくてもわかるわね。


「ではステータスポイントを割り振ってほしい。 振れるのはこの7つだ」



 ・スタミナ(HP)

 ・魔力MP

 ・力

 ・防御

 ・素早さ

 ・運

 ・器用



 ふふん。

 この錬金術士リーズさんにスキはないのよ!

 モチロン、ここもバッチリ決めてきたんだから!


「スタミナに全部入れちゃってください!」


「……本当にそれで構わないか? スタミナに振ればHPと一緒に上昇し、高いほど疲れによるステータス低下やダメージによる気絶を避けられるが……」


「女の子に二言なし!」


 赤ん坊でもわかるくらい自信満々な返事を返した。

 スタミナについてはアインさんが言った通り。

 フィールドやダンジョンを行動するとどんどん減っていき、なくなるとステータス異常になりやすくなっちゃうんだって。


 そんなのは常に気をつけて計算してればいいものだから、もの言いたげなアインさんの目が意味とするところはすごく分かる。


 でも、遠くに行けば行くほどいい素材アイテムが手に入るし、早ければ早いほどそのアドバンテージは高くなるのよ……。

 だから……!


「私はこれで戦います! スタミナ極振りと錬金術で、24時間戦います!」


「……相当の覚悟とお見受けした。 では――」


 私の返事になにをみたのか。

 アインさんは軽くうなずいたあと、腰に刺していた剣をゆっくり抜いた。

 こんな真っ白い世界でも存在を感じさせる銀の長剣。

 それを地面に突き立てた時。なんの仕掛けか電撃が描き出されるように走り出して扉が現れた。


「錬金術士リーズ。 君はフォークロアという言葉の意味を知っているか?」


 ここは素直に首を横に振った。


「民話、なのだそうだ。 この扉の先は我々の世界。 光と闇、英雄と魔物、そして魔法と機械。 相反する様々なものが人々の物語として語られている。 数え出せばきりがないほどにな」


「なるほど、だから無限の民話……」


「だが、初めは誰もが無力だ。 強靭な戦士も、凶悪な魔神も、文明を作り上げた科学者も、皆変わらずなんの力もない存在だったのだ。 誰よりも強く夢を追い求めたからこそ、世に名を残したのだ。 だからリーズ」


「はい!」


「誰よりも強く夢を描き追い続けろ。 夢は己を信じて追い続ければ、いつか必ず叶うものなのだから」


「……はい!」


 私の返事に合わせて、扉が開いていく。

 夢を描けだってよ。自分を信じて夢を追い続けていれば、夢はいつか必ず叶うんだってよ! そうしたらもう、頑張るっきゃないわ!


 できる準備はもう全部したんだから、あとは全力で突っ走るのみ!


「さて、これより先は無限の民話が伝説として紡がれる世界……お前が何を望み、どんな伝説を作り出すか、もしまた逢えたなら見せてもらうとしよう」


 その言葉と同時に私は扉へと飛び込んだ。

 大丈夫、やれる!


 私の望みは無限のお金!


 この世界、インフィニティ・フォークロア・オンラインをスタミナ極振りで攻略して、「ゲームで借金を返した女の子」っていう伝説を作ってやるんだ!



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