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旦那様と奥様の愛情(中編)

「貴族というのは子どもにお金をたかるものなのかしら?」

「は? そいつは成人だろ」

「子どもの振りして寄付から逃れようっていうのか?」

「あなた方がいつリチャードを成人扱いしたのですか?」

「実際に成人だろ」


その言葉を聞いた奥様が周りを見回しながら問いかけます。



その言葉に周りは黙り込みました。


「リチャードを成人と認めてくださる方はいらっしゃいますか?」


奥様がさらに問いかけても誰も反応しません。

旦那様の友人の方も声を出されませんが仕方ありません。

下手に発言すれば主催の貴族たちに目をつけられます。


「誰も成人と思っていないようですが?」


主催の貴族たちに向き直り改めて問いかけられましたが、

返答はありません。


「平民風情が出しゃばるな!!」

「そうだ、ここは平民が話す場ではない!!」

「どうせ金目的で子豚のものを咥えこんだんでしょう、汚い淫売が」


主催の貴族が黙ったことでここがご機嫌取りの機会だと思ったのでしょう。

周りにいる夫人たちが口汚い言葉で旦那様と奥様を罵ります。

しかし奥様はその言葉を無視して問いかけます。


「あなた方はどのくらい寄付をされるのですか?」


夫人たちの言葉が詰まりました。

おそらく寄付はしていないのでしょう。

普段から見ていても寄付をしているのは旦那様だけです。


「まさか平民以下ということはありませんよね?」

「平民を嫁にするような格下の貴族だから寄付してるのよ!!」

「そうよ、格が足りないから金で補ってるだけ!!」

「つまり格はお金で買えると言っている訳ですね」

「は?」


奥様の言葉に周りの貴族のみならずわたくしも驚いています。

そのような発想自体ありませんでした。


「な、な、何言ってるの、格の違いはお金なんかで補えるわけないでしょ!!」

「金、金、金、ってあさましい」


先ほどまでと言っていることが違います。

格が足りないというのはどこにいったのでしょうか。


「つまり寄付に意味はないと?」

「招いてあげてるんだからせめて金ぐらい出すべきよ」

「そうよ、参加料よ」

「なるほど、みなさん寄付ではなく参加料であるという認識なのですね」


奥様の声が少し高くなりました。

これは奥様が怒っているときの癖です。


「"私の子どもに"要求した莫大な参加料を格の違いで済ませられるか試してみますか?」

「はぁ!? あなた達に子どもなんていないじゃない!!」

「まぁ!! ならあなたがリチャードを成人だと証明して下さるのですね」

「は?」

「さあもう一度大きな声で「ここに子どもなんていない、リチャードは成人だ」と言って下さい」

「え? あ、違っ」


なんということでしょう。

寄付の話がいつの間にか旦那様を成人だと主張する話になっていました。

あの夫人は主催の貴族を擁護したつもりだったのでしょうが、

顔を青ざめさせて主催の貴族と夫の顔を交互に見ています。


「……成人と認めよう」


顔を見られていた主催の貴族の一人が旦那様を成人であると認めました。

今までわたくし達や旦那様が抗議されても一切認めなかったのに、

こんな形で扱いを改善させるなんて思いませんでした。


「リチャードは成人であり子どもではないということですね?」

「ああ」

「ならば今日子ども扱いをしていたのは大変な無礼に当たりますね」

「なっ!?」


おそらく認めれば終わると思っていたのでしょう。

恥ずかしながらわたくしもそれで良いと思っていました。

しかし奥様はそれで終わらせてはいけないという強い意志が感じられます。


「謝罪を要求します」

「ぐっ……」


言い返せない様子で、

口元を歪ませながら下を向いて何かを考えているようです。


「平民風情が」


群衆の中からポツリと呟く声。

誰が言ったかは分かりませんが内心みなそう思っているのでしょう。

敵意に満ちた視線で奥様を見ています。


「ええ、平民風情ですら非礼があれば謝罪しますよ」


しかし奥様は折れることなく毅然と立ち向かわれております。

その凛々しいお顔に見とれてしまいそうです。


「改めて言います、謝罪を要求します」

「……わかった、リチャードどの、この度の非礼大変申し訳なかった」


貴族が合図を送るとすぐさま椅子が新しいものに取り換えられる。

しかしこれでは……。


「それでは足りません、主催全員から謝罪が必要です」

「なんだと!?」

「寄付はあなたの一存ではありませんよね?」


その通りです。一人が謝罪すればいいというものではありません。

会場全体が旦那様を子ども扱いしていたのですから、

最低でも主催の貴族全員は謝罪すべきでしょう。


主催の貴族達が集まってどうするか話し合っています。

おそらく謝罪せずに済ませる方法でも考えているのでしょう。

そういうのは相手に気づかれないようにするものでしょうに。


しばらくしてようやく話がまとまったようで、

主催全員が足並みを揃えて旦那様の前に立ちました。


「「「此度の件、本当に申し訳なかった」」」


予想に反して全員が謝罪の意を示しました。

旦那様を馬鹿にしていた貴族達が謝罪している光景に、

少し涙が出そうになります。

こんなことが起きるなんて思いもしませんでした。

奥様も満足げな顔で頷いておられます。

これで解決だと誰もが思ったその時です。


「あなた方だけでは謝罪が足りない、周りも謝罪が必要だ」

「は?」

「リチャード!?」



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