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第12話

一年目はとにかくレベル上げに勤しまなくてはならない。

イベントを取り逃しても、それは後でリカバリーが利く。

しかし最終レベルに達していなければ、バッドエンドというかデッドエンドまっしぐら。

結構シビアなんだよねこのゲーム。

レベル上げを上手く消化できていれば、一年生の夏休み明けにはドラゴンの生態レポートを提出できる。

そう。ローズガーデン学園はもうすぐ夏休みに入る。

夏休みの宿題はそれぞれランクがあって、一番上がドラゴンの生態。次いで魔石の結晶について。他幾つかあって、最低ランクが魔法書の感想文。

感想文は二日で出来るから日数稼ぎに敢えて選ぶのも手段のひとつ。

でも貰える経験値かなり低いんだ。当たり前だけど。

ドラゴンの生態は夏休みを半分使う大仕事。

当然のこととして、それを選ぶと他のイベントは出来ないし、アルバイトも同様。

その代わりに貰える経験値が莫大。

美味しい話には裏がある。

というか、細々としたイベントを取るか、最終バトルの為に手堅く攻めるか。

悩み所なのだわ。

などと余計なことを考えつつ、今私は薔薇園の手入れのアルバイトをしている。

今やっているのは咲がら切り。

続けて良い花を咲かせるために、咲き終わりに近付いた花の枝を切る。

そうするとそこから花芽が伸びて、次の花が咲いてくれる。

咲き終わりを判断するのは少し難しい。先生が言うには花が八分咲きになった時だそうだ。

開き切る前だと、もう少し経ってから、とタイミングを逃すことが多いという。

早めに切り戻すことで二番花、三番花が綺麗な状態で咲くそうだ。

切った薔薇は貰って帰って良いので、アルバイトは私だけではなく幾人か参加している。

「次に良い花を咲かせるために、八分で切られてしまう花は少し可哀想のような気もするわね」

令嬢が呟き、わたしも頷いた。

「けれどそれでは調和を乱してしまうわ」

不意に現れたセラフィナ様が仰る。

薔薇に手を伸ばし、鋏を入れ、躊躇なく切った。

「美しさの調和の為に、取り除かなくてはならないものもあるのよ」

ぱちん、ぱちんとはさみの音が響く。

「でも」

セラフィナ様は切った薔薇の花弁をそっと撫でた。

「散るまでの間はわたくしたちの側で、美しく咲き誇ってくれるわ」

セラフィナ様は深紅の薔薇が良く似合う。

美しくて気高くて近寄りがたいけれど、とても繊細で馨しい。

……などと余所見をしていたら指に棘を刺してしまった。痛い。




色とりどりの薔薇の花束を抱え、生徒たちが下校する。

「やあ、ロゼッタ。今帰りかい?」

アルバート様とフェルディナンド先輩が現れると、効果音と共に背後に花が散る気がする。

それはさて置き。

「はい。ごきげんよう、アルバート様、フェルディナンド先輩」

「待って待って」

そのまま通り過ぎようとして止められる。

できるだけアルバート様の好感度は友好を保っておきたいんだ。

今から上げ過ぎる訳にはいかないんだ。わかってくれ。

いや、無茶なのは承知だけれども。

「はい」

私の抱えた薔薇の花束から、アルバート様が一輪選ぶ。

「これ、貰ってもいいかな」

「どうぞ。アルバート様はアプリコット色がお好きなのですか?」

「ん?うん、今はそうかな。ふんわりとしていて可愛いだろう」

割と躊躇い無く選んだな。

アルバート様が好きなのは淡いピンクの薔薇だった気がしたけど。時期によるのかな?

君に似ている、なんて囁いて髪に飾ってくださるイベントが終盤にあった。

……ということはロゼッタがピンクなのか。今意中のご令嬢はアプリコット色。

誰だ。

セラフィナ様はさっきも思ったけど深紅の薔薇に譬えられることが多い。

アプリコットは誰?

不審な顔つきになってしまった私に、アルバート様が変な顔をする。

「どうしたんだい?私の顔に何かついている?」

「いえ、申し訳ありません。ただ、意外な色を選ばれた気が致しまして」

「そう?母が好きなんだ。この色」

王妃様か!!

「なるほど。フェルディナンド先輩は要りませんか?」

「貰ってもいいのかな?」

「はい、勿論」

最近フェルディナンドを何と呼べばいいか、迷っている。

先輩だったり様だったり、どれが一番丁度いいんだろう。

フェルディナンドは白に近い淡いピンクを選ぶと、棘を折り取り、葉を数枚残してナイフで短く切った。

「貴方に」

とすっと頭に刺されて。いや、差されて。

イベントだこれ。

アルバート様のスチルイベントをフェルディナンドがこの時期に?!

いやまったくそういう意味合いとか無いんだろうけれど。

無いよね?!無いだろう?!

呆気に取られて固まって。じわじわと頬が赤くなったのがわかった。

「お似合いですよ。ロゼッタ嬢」

「うん。フェルディナンドも中々隅に置けないことをするね」

「ふふ。アルバート様の影響でしょうか」

では、とにこやかに去って行った二人を見送ることもできず、私は道端で暫く固まったままだった。


乙女ゲーム!!直に来ると衝撃が!!大きい!!




薔薇を痛めてはいけないので大人しく帰宅の途についたが。

薔薇を花瓶に生けて、私は家を飛び出した。

手近なところで発散しないと恥ずかしくてテンションおかしいわ。


そんなわけで八つ当たりの対象となったモンスターの皆さん。ごめんなさい。

美味しく頂きました。経験値として。



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