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第11話

「食堂にフォーチュンクッキーのお店が来ているんですって」

開口一番、クラリスが教えてくれた。

フォーチュンクッキー。

所謂おみくじせんべいだけれど、少しの魔法も掛かっているマジックアイテム。

しかも美味しい。折り畳まれたクッキーを割ると、おみくじが飛び出て来る。

「早速買いに行きましょう」

女の子はみんな占いが好き。おみくじが好き。そうでもない?

フォーチュンクッキーの売り場は案の定ごった返しているが、皆きちんと順番を守って並んでいる。流石に貴族の皆様は基本的に礼儀正しい。

時々なってないのもいるけど。

「いらっしゃいませ。お好きなクッキーをどうぞおひとつ選んでくださいね」

売り子さんの籠の中からひとつ、選ぶ。こういうのは直感で引くのがいい。

クラリスは結構迷って、そっとひとつを選んだ。

二人で同時にクッキーを割る。半分の欠片は先に口に放り込む。落っことしたら勿体ないし。

サクサクと歯応えも良く、控えめな甘さで美味しい。

クッキーを噛み砕きながらおみくじを広げると。

「今日の努力が、明日の成功につながります」

「一歩踏み出せば、道は開けるでしょう」

クラリスと私はお互いにおみくじを見せ合ってきゃっきゃと笑う。

きらきらと微かに星が飛び散り、バフが掛かったのがわかった。小さな魔法。

「お互いいい結果で良かったわね」

「デバフ掛かったら嫌だものね」

「デバフってなに?」

「運を下げる効果っていうか、気にしないで」

うっかり口が滑っただけだ。バフとかデバフとか言わない言わない。

この世界では神様の悪戯。小さな幸運とか些細な不運とかそんな風な言い方をする。

この世界の神様は多数いる。

まずは偉大なる天空神カエルム。すべての神の父。

そして太陽神ソール。月神ルーナ。星神ステッラ。運命神フォルトゥナ。

春神ウェール。夏神アエスタース。秋神アウトゥムヌス。冬神ヒエムス。

恋愛の神アモル。時の神テンプス。

他にもいっぱい。花の神とか、風の神とか、試験の神とか。

試験の神はそれこそ試験の時に祈る。

上手くいきますようにとか、受かりますようにとか、そういうの。

神話関係はざっとしか覚えてないな。

でも世界の根幹に関わってるから、運命を変えようとかそういう行動にはめちゃめちゃ関係してくるわけで。

神話の授業の時にきちんと聞いて覚えよう。

私の行動は神様方に怒られそうだけども。


そこへセラフィナ様がアナベル、ベアトリクスを連れて通り掛かられた。

「おはようございます、セラフィナ様。おはよう、アナベル、ベアトリクス」

「おはようございます。セラフィナ様。おはようございます。お二方」

セラフィナ様は朝露の煌めく薔薇のようなお顔を向けて、ご挨拶を返してくだる。

「おはよう、ロゼッタ。クラリス」

「おはようございます」

「おはようございます」

アナベル、ベアトリクスは双子のように揃ってカーテシー。

「セラフィナ様も如何ですか。今日の運勢を試してご覧になりませんか?」

「そうですわ、セラフィナ様」

「楽しそうですわ、セラフィナ様」

あまり乗り気でなさそうなセラフィナ様だったが、私たちがきゃっきゃと誘うと、少し困ったように眉を寄せて、けれどクッキーを手に取ってくださった。

「わたくしは普段こういうことはあまりしないのだけれど、これは割って食せばいいのよね?」

「はい。半分に折って、中身を取り出してご覧ください」

「何が書いてあるか、楽しみですわね」

セラフィナ様のおみくじは。

「笑顔はあなたの最高の武器です」

シャランと可愛らしい小さなピンク色のハートが舞った。

「きゃ、あたりですわよ!」

「おめでとうございます、セラフィナ様!」

「恋愛運アップですわ」

パチパチと拍手が上がる。

セラフィナ様は少し頬を染めて照れながらも優雅にカーテシーをしてみせた。

この機を逃さずアルバート様を確保しなければ。

「ほら、そんなに騒ぐものではなくてよ。行きましょう。授業に遅れてしまうわ」

にこにこと嬉しそうな私たちに戸惑いながら、セラフィナ様はスカートを翻して教室に向かう。

セラフィナ様の周辺に淡くピンクのハートが揺れていて、可愛い。

アルバート様、お会いできないかな。今が最高のタイミングなんだけどな。

今日の努力は明日の成功。主人公補正でアルバート様を召喚出来たら。なんてことを思いながらセラフィナ様の後を追っていくと、クラリスがはっと立ち止まった。

「殿下だわ」

ナイスタイミング。

セラフィナ様は立ち止まり、優雅にカーテシー。

「おはようございます、アルバート様。ご機嫌麗しく」

「おはよう、セラフィナ。今日は一際ご機嫌だね」

セラフィナ様はぱっと頬を染め、はにかんだように微笑まれる。

この可愛らしい笑顔を見て、ときめかないなんて有り得ない。

アルバート様はにこりと微笑み返した。

「良い一日を」

「アルバート様も」

お二人が並んでいると、本当に絵になるなあ。と、アルバート様とフェルディナンドがこちらへ向かってきた。

「おはよう、ロゼッタ、それにクラリス」

「おはようございます、お二方」

「おはようございます、アルバート様、フェルディナンド様」

「おはようございます、殿下、フェルディナンド様」

「ロゼッタ、栞をありがとう。使わせてもらっているよ」

「お気に召しましたら嬉しいです」

一礼して擦れ違って、クラリスが私の脇腹を小突いた。

「縁結びしたいのって、殿下と?!」

小声で喚くという器用なことをして見せるクラリス。私はにやりと笑って頷いた。

「大いなる野望の為の一歩よ」

「何するつもり?」

「恋の橋渡し役」

「貴方の恋は?!」

「ひとまず置いておいて」

クラリスが何とも言えない表情で私を見る。

違うの。自己犠牲とか献身とかそういうのじゃないの。

これは私の幸せのための努力なのよ。






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