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第6話

放課後、スライム退治のアルバイト。片っ端から片付けていく。

ゲームしてた時は勝手にカウントしてくれてたけど、これどうやってお金貰うんだろう。

退治した数とか数えてないけど。

パラメータを見れば順調に上がっているので、その辺は上手く処理してくれるのかもしれない。

そんなこんなで街の一角からスライムの巣は姿を消した。

お金も予想以上に貰えてホクホクしながら帰宅。

「これ、臨時収入。家の補填ほてんに使って」

父と母に笑顔で革袋を渡せば、二人の顔は曇った。あれ?

「気持ちは嬉しいけれど、自分の為に使いなさい」

「そうだよ。年頃なんだし、着飾ったり色々入用だろう?」

本当に、良い両親だなあ。ロゼッタは幸せだ。

そのロゼッタに成り代わっていて、申し訳ない気持ちが増す。

ごめんね。中身がしがないOLで。

「必要な分はちゃんと分けてあるよ。ちょっと予想外に多かったから大丈夫だって」

「危険なことはしていない?」

「スライム退治に危険は無いよ」

「甘く見ると痛い目を見るぞ。学校の勉強は疎かにしていないだろうね」

「学年首席の特待生です。成績落ちたら奨学金も貰えないからその辺は気を付けてる」

「お友達とは上手くやれている?」

「仲良い子もできたよ。今度行商が来る日に一緒に遊びに行ってもいい?」

打てば響くような私の回答に満足したのか、両親はそれ以上は言わずにお金を受け取ってくれた。

「勿論よ。楽しんでいらっしゃい」

「男の子かい?」

「女の子。クラリスっていうの。可愛い子よ。サーノ伯爵家のお嬢さん。知ってる?」

「ああ、サーノ伯爵家のお嬢さんか」

母が少し顔を曇らせる。

「うちのことでご迷惑をお掛けしないかしら。評判とか」

祖父が大失敗して没落した我がクラヴィス伯爵家。

祖父の評判はそれは酷いものだけれど、父に対しては同情の眼差しが多いと聞く。

人柄もあるのだろう、古くからの友人たちとは変わらずお付き合いがある。

「向こうから声掛けて来てくれたし、大丈夫だと思うけど……何かまずいことがあったらすぐ離れるから。心配しないで」

勿論、悪評なんて立てられないように振舞うし、いずれはクラヴィス家も再興して元の優雅な暮らしをさせてあげるから、楽しみにしていてね!

その為にも、毎日毎晩気は抜けない。

とにかく一定以上にパラメータを上げなければ挑戦できないイベントが多いのだ。




そして今は魔法の実習の授業。

ラティオー先生が注意事項を厳しく繰り返す。

それなりに危険で怪我人も出ることが多い授業だ。

標的に魔法を当てて破壊するのが今回の課題。

標的はそれぞれランダムに出るから、どの属性の魔法が効くかは出て来るまでわからない。

「ロゼッタは余裕ね。かっこいいわ」

クラリスが羨まし気に私を見る。

堂々と背筋を伸ばし、自信ありげに見えるのだろうか。

「一応特待生だから、無様はさらせないでしょ。頑張るしかないね」

本当は少し不安もある。ゲームでの体験と実際の体験は違うことが多いし。

そもそもゲームの流れと齟齬が出て来ている場面は多いし。

ミニゲームのこの的当ては割と得意だったので、楽しみ半分、不安半分というところだ。

「ではまずクラヴィスさん。お手本を見せて頂戴」

「はい!」

私は一歩踏み出した。杖を構え、呼吸を整える。

的が立ち上がる。赤だ。水魔法で撃つ。ほぼ反射で撃ったので相当なスピードで的を撃破。

歓声が上がる。続いて黄、青、緑と次々と的が上がる。

これも早撃ちのように魔法を当てていく。

属性も間違えることなく、加えて真ん中を射抜く。

「以上です。お見事!」

ラティオー先生に拍手を送られ、周りの皆も拍手をしてくれた。

誇らしげに一礼。

セラフィナ様も拍手をしてくれていた。

思わず満面の笑みで見てしまって、目を逸らされる。

うーん。お近付きになりたいのだが、難しいな。

アナベルとベアトリクスが文句を言いにやって来た。

「目立ち過ぎよ、ロゼッタ」

「そうよ、もう少し控えめになさい。次はセラフィナ様なのよ」

指摘され、反省する。

セラフィナ様に限って緊張などなさらないだろうと思ったけれど、やっぱりプレッシャーだよね。

けれど流石セラフィナ様。文句なしの完璧にこなしてみせた。

私たちは精一杯拍手を送る。

クラリスが苦笑交じりに私を突いた。

「ロゼッタ、いつからセラフィナ嬢のファンになったの?」

「初めて拝見した時からよ。言ってなかったかしら」

即答する私にクラリスは苦笑を深める。掛け値なしに本気なんだけどな。

「では次は二組になってお互いに防御と攻撃の練習をします。好きな者同士でと言いたい所ですが、同程度の魔力量でないと怪我をしますからね。こちらで分けます。さあ、呼んだ者から前にいらっしゃい」

当然の如く一番目にラティオー先生に呼ばれる。

ロゼッタの魔力量は桁外れだから仕方ない。クラリスに後でね、と手を振って。

私と組むのはなんとセラフィナ様だった。嬉しさに思わず頬が上気する。

「セラフィナ様、宜しくお願い致します!」

「宜しく。貴方はいつも少し元気が良すぎるようね」

セラフィナ様は苦笑交じりに手を出してくださって。私は恭しくその手を取って額に押し頂く。

「同じ学生なのですから、今はそういった態度は不要よ。改めなさい」

「失礼致しました」

もう一度、セラフィナ様の手を取ってそっと握る。

「宜しい」

微笑んでくださったセラフィナ様は、それはもう光り輝くようで。

涙が出るかと思った。


二人向かい合って、杖を構える。

「では行きますわよ」

「はい。いつでも大丈夫です」

まずはセラフィナ様が攻撃、私が防御だ。

足元で円を描き、中空で半球を描く防御陣。

お椀を被せたような形と言ったら伝わるだろうか。

どの魔法が来てもいいように、全種類六種の防御を重ねて掛ける。

ひとつずつ外側から殻を割っていくイメージだ。

セラフィナ様は丁寧に一枚ずつ防御層を剥していく。

真剣な眼差しが綺麗だなあ。

「集中なさい!」

怒られた。見蕩れていたのがバレたらしい。

一枚。そしてもう一枚。

最後の光の防御層は剥すのに苦労なさっているようだ。

少し気合を入れ過ぎただろうか。ロゼッタの属性は全属性だが特に光が際立って強い。

反対にセラフィナ様は闇属性が強い。

簡単過ぎては申し訳ないと思ったのだが、固め過ぎたかもしれない。

セラフィナ様の表情に少しばかり焦りが見える。

光と闇は相反する。

セラフィナ様には光は破り易い魔法の筈なのだけれど。

ずる、とセラフィナ様の影が伸びた。

「え」

そして一瞬の間に私の防御に絡みつき、砕いた、、、

それはもう木っ端微塵に。粉々。

余波が頬を撫でるように通り過ぎる。

生温かいものが伝った。

「ロゼッタ!」

セラフィナ様が慌てて走り寄る。そして私の頬をハンカチで押さえた。

結構ぱっくりと割れていたようで。押さえたハンカチが真っ赤に染まる。

セラフィナ様はとても狼狽えていらっしゃるので。

「大丈夫ですよ。舐めとけば治ります」

などと軽口を叩いたのだが逆効果。

セラフィナ様は目に涙を溜めてしまわれた。

「申し訳ありません。防御が不十分でした。私の失敗ですから、どうぞセラフィナ様はお気になさいませんよう」

ラティオー先生に一声かけて保健室へ行く。

流石にちょっと痛かった。治癒魔法はまだ習ってないんだよね。

このくらい本当に舐めておけば治るレベルなのに。




そして悪いことに。

セラフィナ様が私にわざと怪我を負わせたのだと言う評判が立った。

許せない。

噂の出所はどこだ。

潰してやる。

セラフィナ様を貶める輩は許さない。


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