ライリルが自分の作ってきたおにぎりをもう嫌だと言っているコールに無理矢理食べさせている様子をダイリルは微笑ましく眺めていた。
「ダイリルさん。紅茶入れてきたわよ。どうぞ」
「おぉ、悪いのう。ありがとうなセラさん」
「あっちは騒がしいわね」
「いやいや、楽しそうで何よりじゃよ。ずっと心配してたからのう」
「あら、随分と優しいじゃない」
ダイリルは紅茶を一口飲み語り始める。
「本当は前から心配だったんじゃよ。息子、ライリルちゃんの親父と言ったほうが分かりやすいか。あいつが急にライリルに新しい店の店長を任すって言い出した時はワシは最初止めたんじゃよ」
「あら? そうだったの?」
「昔からの友達ならわかると思うがライリルちゃんは人の上に立つような子じゃない。もっと自由に楽しく過ごしてもらいたかったんじゃよ」
「そうかもしれないわね」
「案の定、ライリルちゃんは最初こそ店に顔を出していたが段々引きこもるようになってのう。君達の前では明るく振る舞っていたようじゃが、あれで中々人に気を使う子じゃから」
「そうね」
「コールくんも今まで借金があって大変だったのじゃろ? 周りには誰も経営を教えてくれる人もいない中、普通の店でも大変なのに接客も技術も必要なリュースショップ経営で余裕がなかったろうな。それであの子は不器用じゃから励ましたいだけなのに素直に言えなくて勝負とかこつけて顔出しに言ってたのも知っておる」
また一口紅茶を飲み視線をセラに向ける。
「セラさんはコールくんの事が好きなんじゃろ?」
「そうね。お嫁さんになりたいわ」
「素直でいいのう。ライリルちゃんもコールくんの事が心底好きと見える。本人は気がついてないだろうがな」
「でしょうね」
「良かったのかい? ワシのセコンドについて? 本当はコールくんの側で応援したかったじゃろ?」
「あら? そうしたらダイリルさんが一人になっちゃうじゃない。私そういうの嫌いなのよね」
「優しい子じゃのう。きっと良い嫁さんになるよ。ライバルは多いがな」
「ふんっ、気にしていないわ。それにライバルは多い方が勝った時の喜びが大きいからいいじゃない」
「良い考えじゃな」
「ねぇ、もしダイリルさんが勝ったら……」
「連れていかんよ。あんなに楽しそうにしてるライリルちゃんの笑顔を奪うことなんて出来るはずがない。昨日もそう言おうとしてたんじゃが久しぶりに孫の顔を見たらな……自分より大切な人がいるのかと思ったら我慢しきれなくなってしもうてな」
いつの間にか歳をとったなと言い、ダイリルは紅茶を一気に飲み干した。
「最高の紅茶だったわい。ありがとうなセラさん」
「いつでもお店に飲みに来ていいわよ」
「楽しみにしておるよ」
『さぁ! 遂に最終戦のお時間になりましたっす! 会場のムードは最高潮っすよ! 両選手中央に来るっすよぉぉぉ!!』
ダイリルがゆっくりと椅子から腰を上げる。
「コールくんは本当に優しくて本当に良い男じゃ」
「言われなくても分かってるわよ」
「さぁて! 最後の大一番見せてやるかのぉ」
ダイリルは向かいから歩いてくるコールに若き日の自分を投影していた。
「漢ぉ! 見せろやこらぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「てめぇこそなおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。
そうだ。嫁さんと手を繋いで走ったあの日と同じ気持ちだ。
ダイリルの頬は自然と緩んでいた。