「なぁ、あの人ずっと店にいないか?」
「いるわね。それにチラチラこっち見てるわよ」
店内にいるのはかなり年配のお爺さんだ。
棚の商品を手に取ったりしているが一向に買い物をする気配がない。
店に入ってきてから少なく見積もっても二時間はウロウロとしながらこちらをチラ見している。
「知り合いって訳でもないよな」
「私も知らない人ね」
「あと少ししたら声かけてみるか」
そんな話しをしていると上からライリルとミールが降りてきた。
「休憩おっわり〜!」
「終わってしまった」
「終わりじゃねぇよ。1時間もオーバーしてるじゃねぇか」
「時間はきちんと守らないとだめよ」
「細かいことは気にしな〜い!」
「寝てた」
「お前らなぁ……」
「ラ、ラ、ラ、ライリルちゃん!!」
「のわぁ!!」
急な声に驚いて後ろを振り返ると先程のお爺さんの顔が目前にあった。
「ダイリルじぃ!」
ライリルの言葉にまた驚く。
「ここにおったのか! 心配したんじゃぞ!!」
まず俺の顔の前から離れろ! 汁が飛んでんだよ!
「あのバカ息子のバイリルがライリルちゃんを追い出したと聞いてのぉ。心配になっ
て探してたんじゃよ。そうしたらここで働いてると聞いて今さっき来てみたんじゃ」
いや、二時間居座ってましたけども?
「わ〜い! ダイリルじぃ! あれやって! あれ!」
あれ?
「おぉ、おぉ、そうじゃなライリルちゃんはあれが大好きだからのぉ。ちょっと待っとれい」
そう言うとダイリルじぃはオレたちから少し離れ、右腕を大きく掲げ、左腕を腰の後ろに回して腰を落として構え始めた。
「あ、あのぉ……店内で変なことは」
「かっ!」
その声と同時にダイリルじぃの服が一瞬にして散り散りばらになった。
俺の目の前には生まれたままの姿のダイリルじぃがさっきのポーズのまま立っている。
幸いなことに大事な部分には売り物のライトの光があたって何も見えていないのが救いだ。
「キャッキャッキャッキャッ」
ライリルが後ろで腹を抱えながらアホみたいに笑っている。
「ダイリルじぃ! もう一回! もう一回やって!」
「しょうがないのう。この棚から洋服を一着拝借してもう一回……」
「やめてください!」
「じゃあ、持ってきた着替えを着るわい」
あるんなら最初からそれを着ろよ!
いそいそと着替えを終えるダイリルじい。
「それじゃあライリルちゃん一緒に帰るぞい?」
「え? やだ」
「どどどど、どうしてじゃ! もう一回やらなかったからじゃな! よーしっ! すぐにもう一回!」
「もうやめてくれ!」
「だってここにいればコール達と遊べるから楽しいし。もうお店の店長やりたくないもん」
「そんな……」
「あの、他のお客さんが入ってこれないんでこの散らばった服を回収してもらってからお帰りください」
「お! ま! え! じゃな!!」
え? なに、目が怖いんだけど。
「お前がライリルちゃんをかどわかしておるのじゃな!」
「違う違う違う! こいつが店長クビになって行くところがないって言うから働いてもらい始めたんですよ!」
むしろ助けてあげた方だし!
「ええーい! うるさい! 勝負じゃ! 勝負をするぞい!!」
「なんでそうなるんだよ!」
「ワシが勝ったらライリルちゃんを連れて行く! お前が勝ったらワシの身体を好きにするが良い!! どんな屈辱でも耐えてみせる!!」
「勝っても俺にメリットないじゃないかよ!!」
「勝負は明日! 場所はラルドレース場跡地じゃ! わかったの!」
「勝手に決めないでくださいよ!」
「ゴォォォォォルゥゥゥゥゥ! ボグいぇにがえるじがなぃのぉぉぉぉぉ!!」
「泣くなぁ!!!」
「ごめん。聞いてなかった。二行で教えて」
「意味がない! 勝負!」
「お爺さま。私、貴方のセコンドに付きますわ」
「セラっ! 何でだよっ! お前はこっち側だろ!」
「だって、ライバルは少ない方が色々確率が上がるでしょう! 人数が多いとイベントが分散するのよ」
何を言ってるんだお前は!!
「じゃあ明日は頼むぞブラザー」
「わかったわブラザー」
ハイタッチして帰ってくな!
戻ってこいダイリルじい!!
「うぅぅぅぅぅ……」
「くっつくなよライリル」
「だっでぇ……」
「明日勝てるように頑張るからさ。でも負けても会えなくなるわけじゃないんだからわがまま言うなよ?」
「ゔん……」
ライリルの涙と鼻水を拭いてやりながら頭を撫でる。
全く飛んだ厄介事が舞い込んできたな。
「負けないわよ! 覚悟しなさいコール! ライリル!」
「セラ! お前はどうしてそんなに楽しそうなんだ!」
「おつかれっすー今起きたっすー」
階段からあくびをしながら降りてくるハナ。
「どうして今まで寝てられるんだ!」
「私、レフリーやりたい」
もう好きにしてくれ……