「なんだこの買取金額は! 舐めてんのか!」
大柄なお客さんがカウンターに足蹴りをしてくる。
「ひぃぃぃぃぃ! ごめんなさいこの金額以上は出せないんですぅぅぅぅ」
「全く、こんなボロい店に持ってくるんじゃなかったよ! 時間の無駄だったわ!」
災難だ。
いや、今のお客さんの事じゃない。
俺がこの店を継がなきゃいけなかったことがそもそもの災難の始まりだった。
じいさんが経営していたリュースショップだったが、ばあさんも五年前に亡くなりじいさんも年が年だし閉店する流れになっていた。
なのに、なのにだ。じいさんがやっていたこの店に多額の借金があることが発覚した。
じいさんは実はギャンブルが大好きだったのだ。
最初は店の売り上げの中でギャンブルに勤しんでいたらしいが、負けてその日の売り上げがなくなる。
そうするとお客さんが持ってきた品物を買い取れなくなるので借金をして買取を行うが店の商品が売れたらすぐにギャンブルにツッコミ負けたらまた借金して買取をしての繰り返し。
最終的には自宅を売ってもあまりある借金だけが残ったってわけ。
悲しいことにじいさんが亡くなっても借金は帳消しにならず残った家族に負債は残ったままになっている。
親父とお袋は祖父の葬儀の次の日に俺に相談もないまま夜逃げをして何処かに行ってしまった。
残ったのはこの店と多額の借金だけ。
一年間はどうにか営業の形だけはとれたが、正直もう限界だ。
なんたって買取できる金がない。
さっきのお客さんだってそうだ。
持ってきたのはそこそこのレア武器であるエレメンタルブレードだった。
通常の買取であれば2000から3000ギークの買取で販売は8000ギークでも一週間ぐらいで売れるだろう。
でも、もうお金のないこの店では500ギークしか出せないのが現状だ。
「そら怒って帰るよなぁ」
店の中を見回していく。
全体的に古臭く商品にも埃が溜まっている。
何十年前に買取したかもわからないもので店内は埋まっていた。
正直ここまでくると掃除する気も起きない。
「買取ができないんだから販売が成り立つわけがないんだよ」
あくまでリュースショップに必要なのは流通だ。
新しい物を次々買い取って素早く奇麗にして商品棚に置いていく。
店内の商品がどんどん新しいものに変わっていく店ほど買い物に来てくれるお客さんが増えるし、自分の家に不要な物が出れば買い物のついでに買取を申し込んでくれる。
そこで買取金額を少し増やし満足してもらえれば、そのお金を使ってまた新たな買い物をしてくれる。
一年間この仕事をやってみてここまではわかった。
だけど一番必要なものがない。
資本金だ。
このカルトナージュの街でリュースショップを行っているのは俺の個人店である「買取ボム」
大手武具屋の子会社が運営している「シート・ストアーズ」
雑貨アイテムを中心に販売・買取を行っている「ピュアストーム」
この三店舗がリュースショップをしている。
ごめん、嘘ついた正直俺の店ではこの二つの足元にも及ばない。
だってこの二つにはリュースショップ以外の売り上げがあるんだもん。
そこでの資金を流して買取金額を高くして買取数を増やして販売金額を抑えてるんだぜ?
ボロ負けの俺からしてみればズルだよズル。
まぁ、そんなこと言ってもしょうがないんだけどさ。
「あー! 全く何回来ても汚い店ね! コール! 今日の売上金を回収しに来たわよ!」
俺の身体が勝手に跳ね上がり冷汗が噴き出してくる。
店の入り口に仁王立ちしているのは金色のクルクル髪を風になびかせいかにも高級そうなピンクのフリフリのドレスを着込んだ、金貸しエルフィン家の娘。
「えーっと……セラ……それが……その……」
「まさか、また今日も売り上げがないわけ!」
「お恥ずかしいですが」
セラがあきれ返った顔で俺を白い目で見てくる。
「あんたさぁ……幼馴染だから今まで私もお父様に話してあげてたけど、もうそろそろ限界よ?」
そうなのだ。
一年間どうにか営業できたのは俺がセラと幼馴染で金貸しの社長である父親に話しをしてもらっていたからなのだ。
逆に言えば祖父に多額の金を貸したのもセラの親父なんだけどな。
「明日! 明日には必ず!」
「もうそれ何回も聞いたわよ! 何度も言うけどもうこんな店辞めなって! 私が話ししてあげるから私の下で一生無休で働けばいいじゃない!」
「嫌だ! それだけは嫌だ!」
「もうそんな我儘言える立場じゃないのまだわからない? いいわ。じゃあ明日までに借金全額返すならこの店を続けていいわよ。でも、返せなかったら一生私の奴隷になってもらうからね! 一生よ!」
顔を赤らめながら鼻息を荒くしながらセラはいなくなってしまった。
「明日までか……」
もう無理なのはわかってる。
借金の金額が利息合わせて約3千万ギークだ。
家売った分も利息だけで意味なくなったしな。
どうやったら伝説の武器を何本も買えるような金額の借金ができるんだよ。
で、俺の手持ちが。
「1000ギーク」
これじゃあ飲み物一本買ったら終わりだ。
これはもう終わりだな……
考えても仕方ないか……明日からはセラの奴隷人生のスタートだ。
「最後の飯とジュースでも買いに行くか」
俺は1000ギークを握りしめて店のシャッターを閉め、歩き出した。
明日からの奴隷生活を考えると体がやけに重く感じる。
「ん?」
遠くで大勢の中年男性達がドーム状の建物に入っていくのが見えた。
近づいてみるとラルドレース場と大きな看板が目に入ってくる。
あぁ、あの六本足で走る一つ目のあいつらのレースか。
確か一位とか二位になるラルドを当てると配当金が貰えるんだよな。
ポケットに入っている持っている1000ギーク増えねえかな。
いやいや、じいさんの事を思い出せよ。
ギャンブルなんて最初に勝てたとしても最後には負けるように出来てるんだ。
「でも、どうせ1000ギークあったところで……か」
俺は吸い込まれるようにラルドレース場に入っていく。
これが俺の人生を激変させるとは知らずに。