桜の時期が終わり、今は夏。緑が生い茂り、温かな風が心地よいです。
太陽が外にいる私や女中さん達を照らしてきます。さすがに眩しいですね……。
着物だと暑いですし、汗がっ!!
ハンカチで拭きますが、すぐに汗が出てきてしまって意味がありません。
むぅ、これだと旦那様が帰ってくるまでの間でお化粧が取れてしまいます。
夏は好きですが、暑いのはどうしても苦手です。
せっかく今日は、以前旦那様が買ってくださった、夜空に小さな桜の花が全体にちりばめられているような柄の着物なのに……。
「奥様、太陽が高く昇っている時に外で待っているのはお体に悪いですよ。お屋敷の中で待ってはいませんか?」
「二口女さん、わざわざご心配ありがとうございます。ですが、私はほんの少しでも旦那様に早くお会いしたく思い……。申し訳ありませんが、ここで待たせてはいただけないでしょうか?」
今、私の旦那様は現代に行かれております。
仕事と言っていたのですが、ついでに私の親がどうなったかも見て来てくださるようです。
私の母親は、自身が住むタワーマンションのエントランス前で、覚めぬ夢の中に旦那様が迷い込ませそのままだったはず。
私達が帰った後、近くを歩いていた人に発見されているはずですね。
今の私には、関係ありませんが……。
──────カラッ、カラッ
「っ!! 馬車の音!」
「ふふっ、帰ってこられたみたいですよ。では、私はこれで」
「あ、ありがとうございます、二口女さん」
馬車の音が聞こえるのと同時に、二口女さんが私に腰を折り、その場から歩き去っていきました。
馬車の音がどんどん大きくなります。
────カラ、カラ。
早く、早く。
音が大きくなるのと同時に気持ちも焦り。でも、楽しみな気持ちが心を埋めつくしているため、自然と口角が上がります。
足が一歩、また一歩と。
自然に前へと出てしまいます。
「あっ!」
馬車が見えてきました。
白い毛並みの馬が二頭、御者席に座っている人の手綱により、こちらへと向かってきております。
黒い馬車に乗っているのは、私の愛しの人。
「おかえりなさい!! 旦那さま!」
「あぁ、ただいま、華鈴」
私とおそろいの柄の着物を着ている旦那様が、馬車から降りてきました。
笑みを浮かべている旦那様に思いっきり抱き着き、旦那様も私を受け止めてくださいました。
この温もり、私は絶対に離しません。
私を地獄から救い出してくださった旦那様を、私は幸せにして見せます。
今の幸せを、旦那様と共に歩み、前へと進みます。
この幸せを、私達二人で――…………