「ほら、お嫁さんが困惑しているわよ」
「あ、すまんな華鈴。いきなりで驚いたな」
「あ、い、いえ。私は大丈夫ですよ!」
「そうか。では、改めて。この人は、我の実の母親である
「言い方に棘があるわね、事実ですが…………」
っ、え、旦那様?
…………? なぜ、いきなり私の肩を引き寄せたのですか? は、恥ずかしい……。
「随分と、変わりましたね。これは、七氏が頑張ったからかしら」
「華鈴が努力した結果です」
「それも、そうね」
??????
な、なんの話しをしておられるのでしょうか……。何が、変わったのでしょう?
────お二人とも、仲がよさそうというか、楽しそうにお話をしております。
これが、親子の会話なのでしょうか。これが、普通なのでしょうか。
いくら考えても、私には無縁ですね。
私に、母親はいませんでしたし……。
「華鈴さん」
「あっ、はい」
「私は七氏の実の母親です。ということは、貴方の義母にもなります」
「は、はい!」
「なので私の事は、本物の母親と思ってください──思いなさい。ほら、お義母さんと、呼んでくださいな。さぁ、さぁ」
「え、は、え?」
これは、え? い、言わないと駄目なのでしょうか。
お義母さんと、呼ばなければならないのでしょうか。
言いたい、言いたいです。
ですが、私にはまだハードルが高いです。高すぎます!!
助けを求めるように旦那様を見上げると、やれやれというように優しく頭を撫でてくださいました。ほっこりです。
「母上、華鈴が困っております。さすがに距離を縮めすぎかと」
「あら、ごめんなさい。娘が出来たのがどうしても嬉しくて、ついね」
あ、旦那様の言葉で肩を落としてしまいました。
うぅ、心苦しいです。私が勇気を振り絞れば良かっただけのことなのに……。
「華鈴、ぬしはぬしのペースでよい。我らには我らのペースがあるからな、焦らずゆっくりでよいぞ」
「すいません……」
旦那様、本当にお優しいです。
私はその優しさに甘えて、自分で前に進もうとしておりませんでした。
これでは駄目です、私も自ら動かなければなりません。
私だって、お母様と呼びたいのです!!!
「ひ、ひひひひ…………」
「華鈴?」
頑張れ私、呼ぶのだ私!!!
「…………氷璃、お、かあ、さま」
い、言ってしまいました!!
しかも、お、お名前付きで、言ってしまいました。恥ずかしいです!!
顔が熱い、下げてしまった顔を上げる事が出来ません!
・・・・・・・・・・・・?
っ、あ、あれ。なにも、返ってこない?
ま、まさか、慣れ慣れすぎましたでしょうか?! 失礼を働いてしまったのでしょうか?!
おそるおそる顔を上げますと、何故か氷璃さんは口を手で押さえ頭を下げております。
隣にいる旦那様を見上げると、何故か苦笑を浮かべておりました。
…………なんでしょうか、この時間。
私、間違えてしまったのでしょうか。
「か…………」
「「か?」」
か? か……? なんでしょう?
「か、かか、可愛いです華鈴さん!! その、恥じらいがあるのもたまりませんね。すぐに顔を赤くしてしまうのは初々しく、頑張っている姿は見ていて微笑ましいです。私が落ち込んでいると思い勇気を振り絞ってくださったのですね、感激しました。胸が高鳴る瞬間に立ち会う事が出来て、私は幸せです」
氷璃さんの目がハートに見えます。
両手で赤くなっている頬を包み、私達を見ています。
これは、結果オーライというものでしょうか…………?
――――――――ゾクッ
っ? え、なんか、急に寒くなってきました。
「あ、あの、旦那様? 急に部屋の室温が下がったような気がするのですが、気のせいでしょうか?」
「いや、気のせいではない。母上が興奮しすぎて、力の制御ができんくなっておるのだ」
「え、力の制御が……? そういえば、氷璃さんって、どのようなあやかしなのでしょうか? ────っ! え、風?!」
氷璃さんから冷たい風が吹き荒れています。
それだけではなく雪まで舞っており、体が冷たくなってしまいます!
これって、もしかしてですが……。
「あぁ、母上は世間ではよく耳にするほど有名なあやかし、雪女だ」
「あぁ……。つまり、なにかに興奮してしまい、辺りを凍らせてしまっているという事でしょうか」
「そういう事だな」
あ、旦那様が手のひらに狐火を作ってくださっております。
私の身体が冷えないように温めて下さっているのですね。
温かい。けど、寒いです。
さすがに、寒いです。
「母上、力が暴走しています。父上にご報告しなければなりませんよ」
「っ!? それだけはやめて!!」
「なら、力を抑えてくださってもよろしいでしょうか?」
あ、やっと風が収まってきました。
まさか、父君の名前が出るだけで収まるなど。
そんなに恐ろしい方なのでしょうか、旦那様の父君様。
あ、挨拶する前に作法をしっかりとお勉強しなければなりませんね……。