思わず、大きな声を出してしまいました。
仕方がない、だって。
私に助けを求める
「私は、貴方に捨てられた時点で、もう貴方の娘ではありません。貴方が、私を捨てたのです。今更、私に助けを求めないでください」
「ち、違うわ。貴方を捨てたのは父親の方よ! 先に神社を捨て、出て行ったのはあの人。私は仕方がなくあの場を去っただけ。あの、寂れた神社から出て行かなければならなくなったのは、夫のせいなのよ!!」
「っ!! あなたはっ――?」
私がまた言い返そうとすると、旦那様が目線だけで制してきました。
旦那様の藍色の瞳に見られてしまうと、口を開くことが出来なくなります。
なぜ止められてしまったのでしょうか。
まだまだ言いたい事が沢山あるのに……。
「ぬしは、娘が母親を助けるのが当たり前。そう思っているようだな」
「あ、当たり前でしょ。私はあの子の母親よ! 娘が母親を助けるのは当然よ」
「なるほどな。無償な愛を求める哀れな母親、それがぬしということか。よくわかった」
言うと、旦那様が片手で女性の右手を掴み振り向かせ、空いた手で顔を鷲掴みにし固定させます。
旦那様と目を合わせると、女性は先程より顔を真っ青にし、体をガタガタと震えだしました。
「な、何をするつもりなの?!」
──────っ!
金切り声を上げ叫ぶと、急に突風が吹き荒れました。
あっ──……
旦那様の火傷の跡が、風で……。
「あ、貴方、その顔…………」
「うむ、少々子供の頃にやらかしてしまってな。顔に、親が持っていた沸騰したお湯がかかってしまったのだ。その時、母親はなんと言ったと思う?」
「な、なんでそんなことを聞くのよ」
「ぬしならどう言うかなと思ってな。それで、どうだ?」
「や、火傷位なら特に気にしなくてもいいでしょ。冷やせば、問題ないわよ」
ここで、旦那様の顔半分に出来た火傷の跡の理由を知ってしまいました。
それと、どれだけ女性が子供に対して無関心なのかも、よくわかりました。
「なるほどな。それがぬしの答えか。やはり、ぬしは母親の風上にも置けぬ、外道だ」
「ど、どういう意味よ……」
「ちなみにだが、我の母親が我に向けて放った言葉は、無い」
え、無い?
「は? 無い? あんた、もしかして母親に嫌われていたんじゃないの? それかわざととかっ―――い!?」
っ、旦那様が女性の腕を強く掴んだみたいです。
女性が顔を痛みで歪めましたが、旦那様は気にせず目を合わせ、言葉を続けました。
「我の母親は、その場では我に何も言わず、すぐに対処に回ったのだ。すぐに冷やし、女中や医師を呼び、手際よく治療してくれた。すべての治療が終わった時、医師から『火傷の跡は、一生ものになりそうです』と聞いた瞬間、涙と共に我に何度も謝罪して来た」
初めて聞いた、旦那様の過去。
火傷は、ただの事故だったのですね。
旦那様のお母様は、素敵な方みたいです。知っていましたが。
旦那様の火傷が永遠のものとなってしまい、心配と焦りと申し訳ない気持ちで、何度も謝罪をしたのでしょう。
「なぜ、我の母親は何度も我に泣きながら謝罪をしたか、ぬしにわかるか?」
「なぜって、知らないわよ、そんなこと」
「考えもしないか…………」
呆れて言葉も出ないと言ったように、旦那様は息を吐き肩を落とします。
「考えようともしないぬしには、これ以上猶予を与えるのも意味はない。我の大事な嫁を傷つけたこと、後悔するがよい」
「な、何をする気だっ――……」
女性は突如、言葉を止めます。
理由は、旦那様が元の姿に戻ったからでしょう。
旦那様の耳は三角になり、背中には尾が九本、ゆらゆら揺れております。
そんな旦那様を目にした女性は、目を見開き口をパクパクとさせるしかありません。
旦那様は、何をする気なのでしょうか。
まぁ、何をしてもいいです。私は特に、胸などは痛みませんので。
「ぬしには華鈴より、酷い目に合わせてやるぞ。我を怒らせたことを後悔せよ」
女性と旦那様の目が合ったかと思うと、なぜか急に体が傾き始め、倒れかけた女性を旦那様が抱き留めます。
「…………お前には、人に捨てられる恐怖、孤独の悲しみ、死ななければならなくなった辛さ。すべてを味合わせてやる。目の覚めぬ夢の中で、永遠にな」