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第21話 旦那様と親への挨拶 母親(7)

「移動手段は、おそらく車だろう。ここで声をかけて、他に助けを求められるのはめんどくさい。あやつが家についてから声をかけるぞ」


「ですが、車だと追いかけるのは難しいのではないですか?」


「追いかけるのは確かに難しい。だから、する」


「先回り?」


 ――――――――ポンッ


「――――――――ん?」


 私の肩に旦那様が手を回してきました。 

 腰ではなく肩。何故、肩なのでしょう。今までは腰でしたのに……。


「む? 腰の方が良かったか?」


「っ! そんなこと言っていません!!」


 いきなり顔を近づかせ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる旦那様。

 私の思考が完全に読まれてます!!


「くくっ、悪かったな。では、行くぞ。今回は一瞬で移動し終わる」


「えっ――…………」


 っ、いきなり視界が白く――………


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ほれ、着いたぞ」


「…………え、え!?」


 ふ、浮遊感すら何もなく、いつの間にか移動しております……。

 今、私がいる場所は、天高くそびえ立つタワーマンションの目の前、圧倒です。


「目立たぬ所で待機していようぞ。車なのであれば、十分以内で辿り着くはずだ」


「わ、わかりました」


 周りを見るとベンチがあったため、そこで待ちます。

 旦那様と星空を眺めながら待っていると、一台の赤い車がタワーマンションの前に止まりました。


 中から現れたのは、先程の女性。

 黒いスーツを身に纏い、黒い髪を後ろで一つにまとめています。

 邪魔にならないようにクルンと、お団子のようにまとめているみたい。


「行くぞ」


「あ、はい…………」


 あの人が、私の母親。

 確かに、曖昧にではありますが、記憶の片隅にある母親の記憶と同じです。


 近付くと、車から降りドアを閉めた女性が私達に気づいたみたいで、ちらっと見ます。

 ですが、そのまま気にせず中に入ろうとしました。


 タワーマンションは、セキュリティがしっかりとしていると聞いたことがあります。

 中に入れば声をかける事が出来なくなりそう。急がなければ――………


「すいません、夜分に申し訳ない。少々お時間いただけますか?」


 あ、旦那様が声をかけた事で、女性が振り向き足を止めてくれました。


「…………どちら様ですか?」


九火七氏きゅうかななし。貴方様の実の娘である、天魔華鈴さんの旦那になった者です」


「…………はぁ? 娘の、旦那?」


 私の事、隠さずそのまま言うのですね。

 前置きなどはないのでしょうか。


 私が旦那様の隣に立つと、やっと私が視界に入ったみたいです。

 女性は目を大きく見開き、手に持っていた鞄を地面に落とし、体をわなわなと震えさせ始めました。


 その反応からして、私の事は覚えているみたいですね。


 先程までは薄暗く、はっきりと母親の顔は見れませんでしたが、今はタワーマンションの光が洩れている為、しっかりと見えます。


 少しだけ、私と似ている顔立ちをしているような気がします。髪色は全く同じ。


「…………っ!」


「おっと、それは許しませんよ」


 女性が私達から逃げようとエントランスに入ろうとしましたが、旦那様が許すはずがありません。


 風よりも早く動き、女性の両手首を後ろから掴み逃げを封じる。

 すぐさま、女性の右手を背中につかせ、左手は壁に。


 女性は壁と旦那様に挟まれ、身動きが出来ない状態になりました。


「あ、貴方、こんな事をしてただで済むと思っているのですか!? 警察を呼びますよ!」


「この状態で呼べるものでしたら、呼んでみては?」


「私が呼ばなくても、ここには監視カメラがあるわ。それに、夜と言えど通行人はまだっ―――え、なんで?」


 女性が困惑の声を上げました、当然です。

 私達の周りには、女性が口にするように通行人がいます。


 仕事帰りの人が多く歩いておりますね。

 ですが、誰も私達には気づいておりません。


 旦那様が私達を他の人に認識させないようにしたのでしょう。

 これは、私と共に空を飛んだ時に使用していた妖術と同じでしょう。


 妖術については、先ほど女性を待っていた時に聞きました。


「な、なんで私がこんな目に合っているのに、周りの人は助けてくれないの!? なんで私を見てくれないの!? 誰か私を助けてよ!!」


「どんなに叫んだところでぬしみたいな、人を平気で見捨てられる者の声は誰にも届かぬぞ。残念だったな」


 女性に囁く旦那様。私も女性に近付き、恐怖で顔を真っ青にしている顔を見下ろします。


「あ、貴方。この人の嫁になったって……。なら、私を助けなさいよ!!」


 …………哀れな女性、本当にこの人が私の母親なのでしょうか。


 この人は、私の事を覚えていました。

 つまり、この人が過去、私へやった行いも覚えているはず。


 私がまだ中学生の時、この母親は、私を神社に残して消えました。

 周りの人が私を蔑むようになったのは、母親が私を捨てたからです。


 捨てられた子供は、悪。

 何もできない、迷惑をかけるから捨てられた。


 そのような暗黙の噂が回ったから。私は誰にも助けられることはなく、生きなければならなかったのです。


 ゴミを漁り、恥を忍んでお金を恵んでもらおうともしました。

 それでも、誰も助けてはくれません。


 そんな人生を私に送らせたのは、他の誰でもなく、この人です。


「華鈴? なに、その顔……母親に向かって、そんな顔…………」


 母親、母親……。


 なに、母親は、自分の娘なら自由に扱っていいのですか? 

 娘は、母親の言いなりにならなければならないのですか? 


 いえ、そんなことは絶対にありません。


 娘だからと言って、自由に扱ってもいいはずがありません。

 娘だからと言って、いらなくなったから捨てて、必要な時だけ利用していいわけではありません。


 娘と言えど、私は人間です。

 人形では無いので、感情があります。


「…………貴方は、私の母親じゃない。貴方みたいな人、私の母親じゃない!!!」

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