「旦那様。旦那様は、私が貴女を見た目だけで気持ち悪いと言うと思いますか? 私が、貴方を気持ち悪いと、見たくないと考えると思いますか? 貴方は、そのような最低な女性を嫁に選んだのでしょうか」
「し、しかし、華鈴も嫌だろう。気持ち、悪いだろう……」
「そうですか……。わかりました」
そっと旦那様から手を離し、後ろに下がります。
言っても駄目なのなら、私は見せつけるだけです。
私がどれだけ旦那様を好いているか、愛しているか。
これから、見せつけてやりますよ!!!
「お、おい、どこに行くつもりだ?」
「人が沢山居る所です。今の時間でも、まだ人は歩いていると思いますので、表通りに行きます」
「なぜだ?」
「旦那様は、私がどれだけ旦那様におぼれているのか理解してくださっておりませんので、それを見せつけるため。沢山の人の前で、出せるだけ大きな声で旦那様の良いところなどを叫んできます!!!!」
「っ!?!? ま、それはやめろ!!!!」
絶対に捕まりませんから旦那様!!
私だって運動は出来ませんが、走るのだけなら何とかなります。
全速力で走り、旦那様のかっこいい所や素敵なところ、かわいらしいところなど。
叫びまくりますからぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!
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「落ち着いたか?」
「むぅ、落ち着いてはいませんが、どうする事も出来ないです」
「だろうな、我に勝とうなど、さすがに無謀だと思うぞ?」
「むぅぅぅうううう!!!!」
「暴れても無駄だからな…………」
私が走り出すと、旦那様も走り出し簡単に捕まえられました。
今の私は、ぷらーんとぶら下げられております。
腰を捕まえられ、足は宙をプラプラしております。
旦那様、力持ちすぎませんか?
私、平均体重はあるのですが……。
「ひとます、華鈴がやろうとしていることはやめてくれ、我が恥ずかしいぞ」
「でも、ここまでしなければ、旦那様は私がどれだけ愛しているのか理解してくださらないじゃないですか」
「わかったわかった。華鈴が我の事を大好きなのはわかった。だから、下ろしても走り去ろうとするでないぞ?」
「……………………」
「このままの状態で表通りに出るか?」
「スイマセン、ハシリダサナイノデ、オロシテクダサイ」
今の状態で表通りに連れ出されるのは嫌です、私がものすごく恥ずかしいです。
ゆっくりと旦那様が私を地面に下ろしてくださいました。
「ふぅ。まさか、華鈴がここまで行動力があるとは思わなかったぞ」
「私は旦那様に私の想いが通じればと思っただけです」
「そうか」
あ、旦那様が私の頭を大きな手で撫で、微笑みを浮かべております。
「ふふっ。旦那様はいつもそのように笑っていたのですね」
「むっ、改めて言われると恥ずかしいな……」
「恥ずかしがらないでください。私、もっと旦那様の色んな表情が見たいです!!」
「っ! …………そうか。そうか!」
旦那様、お綺麗ですよ。
気持悪いなど、そんなことありません。
旦那様は、私の旦那様は世界一―――いえ、宇宙一かっこよくて美しくて、優しい。
そんな、素敵なお方です!!
「おっと、話していると時間はあっという間だな。もう少しで九時になるぞ」
「え、もうそのようなお時間なのですか?」
たしかに、いつの間にか赤かった空が夜空に切り替わっております。
雲もないため、半月が綺麗に街を照らしており、辺りは明るいです。
「に、しても。これはちょっと困ったなぁ」
「何がですか?」
「うーん。華鈴が良くても、さすがになぁ。最初はやはり容姿が物を言う。しかし、隠していた布はどこかへと行ってしまった……」
…………黒い布で顔を隠すのも現代ではアウトかと思います。口に出しては言いませんが……。
「あ、旦那様、少し屈んでいただいてもよろしいですか?」
「む? 大丈夫だぞ、ほれ」
旦那様が私と目線を合わせるくらい腰を折ってくださいました。
旦那様のかっこいいお顔が近くて、思わず息が詰まります。
な、撫で回したい……。
いや、ダメですよ華鈴。
えっと、気を取り直します。
旦那様は、前髪が他の人と比べると長いです。
なので、手櫛になってしまうのは申し訳ないのですが、旦那様の白銀の前髪をまとめて、横へ流す感じにします。
片目が隠れてしまうのですが、普段黒い布で顔を隠しておられますし、おそらく大丈夫でしょう。
「これで少しは大丈夫かなと思います。かっこいいですよ、旦那様!!!」
「そ、そうか? まぁ、華鈴が大丈夫だと言うのなら問題はないのだろう」
私を信じて下さり嬉しいです!!
「よし―――お、タイミングがいいな」
「え、あっ……」
今は高層ビルの裏路地に居たのですが、ちょうど表通りを見ると、一人の女性が歩いているのが目に入りました。
旦那様がその人を追いかけるように歩き始めます。
その際、ポケットから一つの髪ゴムを取り出し、綺麗な銀髪を一つにまとめっ……?!
す、素敵です!!
「おいて行かれぬうちに行くぞ」
「あ、はい!」
興奮している時間はないようです。
早く行かなければ!