旦那様が顔を片手で隠しており、私の方を向けてくれません。
何も言えずに見ていると数秒後、指の隙間から夜空のような藍色の瞳が覗きました。
「見た……、か?」
旦那様の瞳、初めて見ました。
すごくキラキラと輝き、綺麗で思わず見惚れてしまいます。
ですが、今は見惚れている場合ではありません。
「はい、見ました。あの……」
「そうか、悪いな。気持悪いもんを見せてしまった。綺麗なもんを見せたのだが、台無しだな……」
…………今まで顔を黒い布で隠していた理由は、それだったのですね。
顔半分を占めてしまっている、痛々しい火傷の跡。
一瞬しか見えなかったですがもう古く、何年も前に出来たようでした。
「…………旦那様、よく見せてください」
「っ、華鈴……」
旦那様の顔に手を伸ばし頬に手を添え、軽くこちらを向くように言うと、素直に手を離し向いてくださいました。
目の周りは黒く染まっており、今以上に治すことは難しそう。
おそらくですが、もう数十年も前に火傷をしてしまったのでしょう。
「華鈴、無理するな。気持ち悪いだろう」
「無理などしておりません。――――あの、痛みなどはありませんか? 古傷でも、天候によっては痛む時があると聞いたことがあります」
「いや、痛みはない」
ほっ、それなら良かったです。
痛みがないのなら、安心しました。
「…………華鈴?」
「はい、なんでしょうか?」
「いや、そんなにまじまじ見られると、気まずいんだが…………」
へ? あ、わ、私、無意識に旦那様を見つめていました!!
「す、すすす、すいません!!!!」
「――――あ、まっ、ちょ、暴れるのは危険だ!! 待て待て、お、落ち着け!!」
「っ!! すすす、すいません!!」
咄嗟に離れるため、旦那様の胸を思いっきり押してしまいました。
あ、危なかったです。
上空だったのをすっかり忘れておりました。
「あの、すいませっ―――」
顔を上げると、思ったより顔が近い?!
少しでも動けば、口がぶつかってしまいそう。
────心臓がバクバクと音を立て、波打っているのを感じます。
私の視界が、旦那様の綺麗な藍色の瞳により覆われます。
吸い込まれそうな瞳。
このまま見続けてしまうと、私はどうなってしまうのでしょうか。
このまま、吸い込まれてしまうのでしょうか。
そ、それはそれで、いいかもしれないです。
吸い込んでください。
「──華鈴、一度降りるぞ」
「あ、はい」
パッと、旦那様が顔を逸らしたため、藍色の
でも、心臓はまだバクバクと音を立てています。
初めて見た旦那様の瞳、顔。
私は、今まで以上にドキドキしてしまって、どうにかなってしまいそうです!
ちらっと、旦那様の横顔を見ると、着地点を探しています。
ですが、視線に気づいてしまったらしく、一瞬、目が合いました。
「っ!!」
っ、驚きと焦りで、思わず顔を逸らしてしまいました……。
黒い布で隠していた旦那様もかっこよかったのですが、素顔の旦那様は、今まで見たどんな旦那様よりも輝いて見えて。見たいのに、見ると目が潰れます。旦那様が輝きすぎて。
うぅ、私の旦那様は、なぜこんなにもお美しいのですか。
私は、またしても旦那様に溺れてしまいました。
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「辿り着いたぞ、足を地面に付けられるか?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
地上に辿り着くと、旦那様が優しく私を下ろしてくださいました。
最後まで気遣ってくださる旦那様は、私と目を合わせてくださいません。逸らされたままです……。
「旦那様」
「なんだ?」
「なぜ顔を逸らしてしまうのですか? 私は悲しいです」
「そ、んなこと、言われてもなぁ……」
私が問いかけても、旦那様はこちらを見てはくれません。こんなこと初めてです。
何を言えばいいのでしょうか。
今、旦那様が求めている言葉はなんでしょうか。
────いえ、求めてなどいないでしょう。
旦那様は、人に自分の欲しい物を求める方ではありません。
欲しい物は自分で手に入れる、そのようなお方です。
なら、私がお伝えする言葉は決まりました。
素直に、私の気持ちを伝えればいいのです。
「旦那様、こちらを向いてください」
背伸びをし旦那様の顔を両手で包み、こちらに向かせます。すると、旦那様は驚いた表情を浮かべ、私を見てきました。
「か、華鈴?」
困惑の声を出す旦那様。
やっと、私と目を合わせてくださいました。