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第19話  旦那様と親への挨拶 母親(5)

 旦那様が顔を片手で隠しており、私の方を向けてくれません。

 何も言えずに見ていると数秒後、指の隙間から夜空のような藍色の瞳が覗きました。


「見た……、か?」


 旦那様の瞳、初めて見ました。


 すごくキラキラと輝き、綺麗で思わず見惚れてしまいます。

 ですが、今は見惚れている場合ではありません。


「はい、見ました。あの……」


「そうか、悪いな。気持悪いもんを見せてしまった。綺麗なもんを見せたのだが、台無しだな……」


 …………今まで顔を黒い布で隠していた理由は、それだったのですね。


 顔半分を占めてしまっている、痛々しい火傷の跡。

 一瞬しか見えなかったですがもう古く、何年も前に出来たようでした。


「…………旦那様、よく見せてください」


「っ、華鈴……」


 旦那様の顔に手を伸ばし頬に手を添え、軽くこちらを向くように言うと、素直に手を離し向いてくださいました。


 目の周りは黒く染まっており、今以上に治すことは難しそう。

 おそらくですが、もう数十年も前に火傷をしてしまったのでしょう。


「華鈴、無理するな。気持ち悪いだろう」


「無理などしておりません。――――あの、痛みなどはありませんか? 古傷でも、天候によっては痛む時があると聞いたことがあります」


「いや、痛みはない」


 ほっ、それなら良かったです。

 痛みがないのなら、安心しました。


「…………華鈴?」


「はい、なんでしょうか?」


「いや、そんなにまじまじ見られると、気まずいんだが…………」


 へ? あ、わ、私、無意識に旦那様を見つめていました!!


「す、すすす、すいません!!!!」


「――――あ、まっ、ちょ、暴れるのは危険だ!! 待て待て、お、落ち着け!!」


「っ!! すすす、すいません!!」


 咄嗟に離れるため、旦那様の胸を思いっきり押してしまいました。


 あ、危なかったです。

 上空だったのをすっかり忘れておりました。


「あの、すいませっ―――」


 顔を上げると、思ったより顔が近い?!

 少しでも動けば、口がぶつかってしまいそう。


 ────心臓がバクバクと音を立て、波打っているのを感じます。

 私の視界が、旦那様の綺麗な藍色の瞳により覆われます。


 吸い込まれそうな瞳。

 このまま見続けてしまうと、私はどうなってしまうのでしょうか。

 このまま、吸い込まれてしまうのでしょうか。


 そ、それはそれで、いいかもしれないです。

 吸い込んでください。


「──華鈴、一度降りるぞ」


「あ、はい」


 パッと、旦那様が顔を逸らしたため、藍色の拘束から開放されました。

 でも、心臓はまだバクバクと音を立てています。


 初めて見た旦那様の瞳、顔。

 私は、今まで以上にドキドキしてしまって、どうにかなってしまいそうです!


 ちらっと、旦那様の横顔を見ると、着地点を探しています。

 ですが、視線に気づいてしまったらしく、一瞬、目が合いました。


「っ!!」


 っ、驚きと焦りで、思わず顔を逸らしてしまいました……。


 黒い布で隠していた旦那様もかっこよかったのですが、素顔の旦那様は、今まで見たどんな旦那様よりも輝いて見えて。見たいのに、見ると目が潰れます。旦那様が輝きすぎて。


 うぅ、私の旦那様は、なぜこんなにもお美しいのですか。

 私は、またしても旦那様に溺れてしまいました。


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「辿り着いたぞ、足を地面に付けられるか?」


「大丈夫です、ありがとうございます」


 地上に辿り着くと、旦那様が優しく私を下ろしてくださいました。

 最後まで気遣ってくださる旦那様は、私と目を合わせてくださいません。逸らされたままです……。


「旦那様」


「なんだ?」


「なぜ顔を逸らしてしまうのですか? 私は悲しいです」


「そ、んなこと、言われてもなぁ……」


 私が問いかけても、旦那様はこちらを見てはくれません。こんなこと初めてです。


 何を言えばいいのでしょうか。

 今、旦那様が求めている言葉はなんでしょうか。


 ────いえ、求めてなどいないでしょう。


 旦那様は、人に自分の欲しい物を求める方ではありません。

 欲しい物は自分で手に入れる、そのようなお方です。


 なら、私がお伝えする言葉は決まりました。

 素直に、私の気持ちを伝えればいいのです。


「旦那様、こちらを向いてください」


 背伸びをし旦那様の顔を両手で包み、こちらに向かせます。すると、旦那様は驚いた表情を浮かべ、私を見てきました。


「か、華鈴?」


 困惑の声を出す旦那様。

 やっと、私と目を合わせてくださいました。


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