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第15話  旦那様と親への挨拶 母親(1)

「改めて見ますと、本当に大きな神木ですね」


「神木と呼ばれているからな。このくらいは大きくなければ、逆に不安になるだろう」


 馬車で、現代とあやかしの世界を繋ぐ神木まで来ました。

 最近では近くまで来ることはなかったので、久しぶりに来ると体に鳥肌が立ってしまいます。


 淡く光っているだけなのに、体に痺れるような感覚が走り、思わず息を飲んでしまいます。


「少し、待っておれ」


 私に上着を渡し離れると、旦那様が神木に近付いて行きます。


 天にまで届きそうな程、大きな神木へ手を伸ばしそっと触れました。

 すると、淡く光っていた神木が、旦那様の手に連動するように強く発光し始めます。


 ま、眩しいです、目を開けられません! 


「旦那様! 大丈夫ですか!?」


「問題ないぞ、あともう少しで収まる」


 瞼を閉じても眩しく、旦那様の上着で顔を隠します。

 数秒、顔を隠していると、徐々に光は収まってきました。


「────ん? 何か変わりましたか?」


 目を開けて光っていた神木を見てみますが、変わったところはないように思えます。


「神木に触れてみろ」


 ? 旦那様がそう言いましたので、言われた通りに神木に手を伸ばしてみました。


「っ!? ひっ!?」


 ――――――――バッ!!


 い、今、神木に触れようとした手がすり抜けました。


 いえ、すり抜けたというより、神木の中に私の手が入り込みました。

 水の中に入れたような感覚でしたが、今のはなんだったのでしょうか……。


「っ、大丈夫か!?」


「は、はい。驚いただけなので大丈夫なんですが……。今、神木の中に手が入っていたような気がするのですが……」


「あ、あぁ、神木の中を通り、現代に行くのだ。華鈴がこちら側に来た時も同じ方法だったが、緊張で忘れてしまったか?」


 ────あっ、思い出しました。

 確か、今回と同じく驚いてしまって、旦那様を慌てさせてしまったはず。


「すいません、思い出しました。その時と同じように、中に入り現代に行くのですね。緊張しますが、大丈夫です」


「そうか。なら、行くぞ。我から離れるでないぞ。離れても問題はないがな」


「わかりっ―――きゃぁ!!」


 旦那様に突如、抱き寄せられました。

 足が浮いてしまい、落ちないように咄嗟に旦那様の首に手を回してしまいました。


 抱き着くような体勢で恥ずかしいのですが、落ちてしまうので手を離すことが出来ません!


「そら、しっかり捕まっておるんだぞ!!」


 私が落ちないようにしっかりと支え、旦那様が地面を蹴り、神木の中へ──……


 ・

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「着いたぞ、目を開けてみろ」


「は、はい……」


 旦那様に言われたように、おそるおそる目を開けてみました。


「あ、ここ………」


 目を開けると、見覚えのある森の中です。

 こちら現代は曇りなのか辺りは暗く、薄気味悪い。


 風が吹くとカサカサと自然の音を鳴らしておりますが、あやかしの世界で聞いているような爽やかものではなく、どんよりとしております。


「なんか、お化け屋敷の中にいるような感覚です」


「確かに、荒れているなぁ」


 旦那様が不安そうに空を見上げています。

 同じ景色を見るため空を見上げますが、緑に囲まれた雲しか見る事しか出来ませんでした。


 …………今にも雨が降りそうです、傘など持ってきておりませんので降らないでいただきたい。


「これ以上天候が崩れる前に、早く事を済ませよう」


「わかりました」


 私を下ろした旦那様は、私と手を繋ぎ、森の外へと向かい歩き出します。

 カサカサと音が鳴るのがどうしても気になり、鳥がはばたく音だけでも驚いてしまいます。


 これは、これから私を捨てた親に会いに行くから、体がこわばっているだけなのか。他に、気づいていないだけで、理由はあるのか。


 旦那様も先ほどから何も話してくれません。

 話したいと思ってはおりますが、話す内容がまったく出てきません。


 話したいのに、気を紛らわせたいのに、内容が思いつかない。

 旦那様のお声で、気持ちを落ち着かせたいのに……。


「華鈴よ」


「っ、はい。何でしょうか?」


「森が開けてきたぞ。少しは、辺りが明るくなるだろう」


 旦那様が言うように、どんどん視界が開けてきました。

 足元に気を付けながら歩いていると、森から出て、石畳を踏みます。


「あ、神社が……」


 周りが完全に開けると、私が生活していた天魔神社が見えました。


「…………」


 残っていて少し、嬉しい気持ちもありますが、懐かしいという気持ちには、どうしてもなりませんね。


 この神社には良い思い出などがないのもありますが、私が居た頃とだいぶ見た目が変わってしまったのが大きな要因でしょう。


「誰も整備していなかったのだな」


「私がすべて行っていたので、これは必然だったかと、思います」


 今の天魔神社は、誰も掃除などを行っていなかったのが一目でわかるほど、ぼろぼろです。


 壁画は剥がれ、蜘蛛の巣が張っております。

 石畳の隙間からは雑草が生え、枯れ葉が風に舞い、転がっておりました。


「悲しいか?」


「そんなことはありませんよ。いい思い出は、ここにありませんので」


 私が立ち止まっていると旦那様が隣に立ち、肩を引き寄せます。


 ────温かい。

 優しく、太陽のような温かさを肩に感じます。


 旦那様の温もりで、モヤモヤとしていた気持ちを落ち着かせることが出来ました。


「────行きましょう、旦那様。早く終わらせ、私達の世界に帰りましょう」

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