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第10話  旦那様への手料理(1)

 旦那様とお買い物に行った日から数日が経ちました。


 最近、旦那様とはお話すら出来ていません。

 理由は一つ、旦那様が忙しいからです。


 私の旦那様は、私がいる世界を統べているすごい方です。

 詳しくはまだお伝え出来ないと言われてしまいましたが、それでもいいのです。


 いいのですが、少し心配になります。


 旦那様は私と会う時は必ず、顔を黒い布で隠しております。なので、表情を見ることが出来ません。


 無理をしていないか、頑張り過ぎていないか。

 旦那様は私を心配させないため何も言ってくれませんので、何も分からないのです。


 私は、旦那様のために何かできないでしょうか。


 ん-。……………………ない、です。


 あれ、私が出来る事って、お掃除とかお料理くらい……?


 お勉強などは学校に通う事すら出来なかったので、まったく出来ません。

 運動も得意ではないので、雑用も難しそう。


 雑用はどれだけ効率よく出来るか、スピーディーに出来るか。

 それを耳にしたことがあります。私には難しいです。


 うぅ、私はなんて役立たずなのでしょうか。悲しいです。


『奥様、二口女です。乾きました着物をお届けに参りました』


「あ、ありがとうございます。入って大丈夫ですよ」


 私が答えると『失礼します』という声と共に二口女さんが私の着物を手に入ってきてくれました。


 今日は天気がいいので、洗った着物がすぐに乾いたみたいです。


「こちらになります」


「ありがとうございます」


 受け取ると、太陽の匂いがふわっと香り、気持ちが良いです。

 触り心地も抜群、ふわふわさらさら。

 下品なので出来ませんが、顔を埋めたいです。


「では、私はこれで」


「あ、すいません。少しお待ちいただけませんか?」


「? はい」


 思わず声をかけ、止めてしまいました。

 ですが、先ほどまで考えていた私の悩みを聞いてほしいと思ってしまったのです。


 二口女さんは、見た目だけだと普通のお美しい女性です。


 黒い長い髪を後ろで一つに結っており、目はぱっちり二重。黒髪と同じ黒い瞳、色白の肌。

 くすみカラーで落ち着きのある着物を着ているのに、整った顔立ちなため華やかに見えます。


 見た目だけでも魅力的な女性なのに、性格や口調も素敵な方。

 いつでも落ち着きがあり、細かなところにもすぐに気づく事が出来る洞察力をお持ちな方なのです。


 このくらい私も出来る女性でしたら、胸を張って旦那様の隣を歩くことが出来るのに……。


「あの、いかがいたしましたか?」


「あ、すいません。引き止めてしまったのに、考え事を………」


「? 何かお悩みですか?」


「…………あの、はい。少し、お時間いただいてもいいですか? ………あ、でも、忙しかったら全然大丈夫です!」


 言ってから気づいてしまいました。


 二口女さんは出来る女性、忙しくないわけがありません。

 それでも、私が言ってしまったら無理に時間を作って、話を聞こうとしてしまいます。


 迂闊でした、私はなんて駄目な嫁なのでしょうか。


「今日の仕事は半分以上終りましたので大丈夫ですよ。今残っているのは、他の方にお願いも出来ますので。ご心配なく」


 優しく微笑みながら二口女さんが言ってくださいました。

 本当に、お優しくて憧れてしまいます。


「では、お悩み。私でよければお聞かせ願えますか?」


「はい、ありがとうございます」


 私の前で座り直し、膝の上に手を置き聞く体勢を作ってくださりました。

 私も体の向きを変え、向き合う形で座り直し、胸を落ち着かせます。


「あの、私、旦那様に何かできないかなと思いまして」


「何か、とは?」


「旦那様が少しでも楽にお仕事が出来る様にとか、無理をしないようになど。何か、旦那様が喜ぶことが出来ないかと思いまして」


 お話の途中で視線を落とし、俯いてしまいます。


 お話をする時は、お相手様と目を合わせるのが当たり前だと言うのに、情けないです。

 何もできない私には何もしてあげられない、そう言われてしまったらと思い、顔を上げることが出来ません。


「なるほど、奥様のお考えはわかりました。素敵なお考えですね、私も全力でお手伝いさせていただきます」


「あ、ありがとうございます!!」


 やっぱり、二口女さんは素敵な方です。笑顔で嬉しそうに言ってくださいました。

 本当に感謝の気持ちでいっぱいです!


「では、後日、また時間を作る形でも大丈夫でしょうか? 今すぐは難しくて…………」


「わかりました、私は大丈夫です。よろしくお願いします」


 二口女さんが笑みを浮かべながら頭を下げ、その場から立ち上がり部屋を後にしました。


「私、少しでも旦那様のお役に立つように頑張ります」


 気合が入ります!! 頑張りますよ!!

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