私は、旦那様に嫁ぐ前、寂れた神社の巫女として活動しておりました。
巫女の活動と言っても、口寄せや浄化などといったことは出来ない。
そのため、窓口や清掃などを主に行っておりました。
特別な力を持っていなくても私がいる神社は、何としてでも守らなければならないのです。
神社の裏手にある森の中には、何百年も受け継がれた神木があるのだから。
ですが、ただ神社を守るだけでは神木を守ることは出来ません。
神木を守るためには、一年に一度、人身御供を行わなければならないのです。
人身御供というのは、神への供え物として人の体を捧げること。
その人も、誰でもいいという訳ではないのです。
”若い女性”
これが、最低条件でした。
今年はとうとう、私が生贄人に選ばれてしまったのです。
親に捨てられ、今までろくな生活を送る事が出来ていなかったので、選ばれた時も、特に思うことはありませんでした。
厄介者を排除したかったんだろうなぁ、と、何故か他人事のように考えていました。
もう、私は自身の人生に期待などしておりません。
逆に生きている事が苦しくて、辛かった。
そろそろ、潮時かなと思いました。
だから私は、生贄人になる事を決めたのです。
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体を清め、布に包まれたナイフを片手に、神社の奥にある森の中、神木の前に立ちます。
今は深夜、満月が私のいる森を照らしております。
星がちりばめられている夜空に、雲が気持ちよさそうにゆっくりと漂っておりました。
このように澄んでおられる夜空の下で、私は、神に自身の命を捧げる事が出来るのですね。
神々しい、親の代まで守られてきた神木の前で、この命を捧げる。
手に持っている、白い布から覗き見える銀色のナイフを胸に突き刺し、この世を去るのです。
――――――――あともう少しで、この世ともお別れですね
人身御供の時間を知らせるように、周りを飛ぶ鳥が、夜空に綺麗な
――――――――時間です
白装束の胸元部分を少しだけはだけさせ、ナイフをくるんでいる白い布をはらりと地面に落とす。
裸足の私は、そのまま神木の目の前に立ち、見上げます。
右手を伸ばし、神木に触れてみます。
心なしか、心音が右手に伝わっているような気がして、心地よい。
『これからも天魔神社を、よろしくお願いします』
この祈りが届かぬことなどわかっております、それでも祈らずにはいられません。
私が居なくなってしまった天魔神社は、跡取りが居なくなってしまいます。
私の代で終わらせてしまう事への後ろめたさはもちろんあります。
ですが、仕方がありません。
私は神に捧げなければならないのです。
もう、決まった事なんですから。
一歩、神木から離れ、ナイフを両手で持ち、胸元に狙いを定めます。
――――――――さようなら
目を閉じると、頬を伝い落ちる涙。
気にせず、ナイフを自身の胸元に振り下ろしました――……
――――――――シュッ!!