「おっ、久しぶり~!」
「焼けたなぁ!誰か分からんかったわ!」
夏休みもあと2日で終わり、という日。
僕たちは、林間学校のグループメンバーで市民プールに来ていた。
鼻につく塩素の匂いも、プールだと思えばワクワクする。
「宿題やったか?」
「まだ!今日明日で徹夜するんや!」
「ぶーっ!んなヤツは泳ぐ資格ナシやぁ!早よ帰れ!」
「お前も道連れじゃぁ!手伝えっ!」
「ぎャァァァッ!オニに食われるぅっ!」
口々に挨拶をする僕らの片隅で、
「あの、ありがとうね。合わせてくれて。海の予定だったのに、ごめんね」
「何言ってんのぉ!気にしないでよね!」
「カレー女王をハブなんかしないって」
「ねー!?」
女子が口々に言う。
氷芽はますます、申し訳なさそうにした。
というのも、今回のプール行きは、彼女のお母さんが 『子どもたちだけで海?それ絶対ダメ!』 と止めたのが、そもそもの発端だったからである。
『母が心配するから行けません。ごめんね』
そんなメールが来て、真っ先に 『プールにしよう』 と動いたのは班長の
理由は今しがた女子が述べた、ほぼその通り。
みんな、林間学校での氷芽の努力に気づいていたんだ。
男子の説得には、僕が動こうとした。
が、実際に役に立ったのは僕らの師匠こと
『海なら、女子はほぼ全員ラッシュガード着用やろうな』
この発言を聞いて動かない男子なんていないだろう。
さすがはセクシーなお姉さん本の貸出元である (だから 『師匠』 なのだ)。
だけど僕はひそかに、
イタい願いではあるが、ほかの男子に氷芽の水着を見られたくなかったのだ…… まあ、虚しい願いでもあるが。
実際の話、ほかの女子たちに混じった彼女の水着姿は、人一倍、目を惹いている。
露出少なめなセパレートだったけれど、重なるように南国の花が描かれたピンクのトップスは、それだけで華やかだ。
それに、長い部分は膝まで届くそのトップスは、ラインが一定でなく、短い部分はお尻の下ぎりぎり程度しかないのも、問題である。
甘めのデザインは、きっとまたお母さんのチョイスだろうな…… などと考えつつ、眺めていると、
僕の目線に気付いたんだろうか。
確かに見ていたけど、かなり、さりげなくしたつもりだったのに……
「このムッツリめ」
「俺になんかひとこと、あるやろー?」
「うん、ナイス判断やったな、師匠。ありがとな。でもなんでムッツリやねん。ソレ言うならアンタやろ!」
「俺はムッツリちゃうでぇ。なぜならナマの水着中1女子より、今日発売の『な・つ・ぞ・ら!
なつぞら、という言葉に、映画館のポップコーンの匂いとそれを食べながら
けれど、僕の口はそんな感興とは関係なしに動く。
「ウソ買うん?あれ高いやろ!」
「ナッちゃんの魅力は1万円以上や!……と兄貴が息巻いてたから間違いない!」
「兄ちゃんに今度何貢いだらいいか、聞いといてや」
「ヒメちゃんの私服ナマ写メ、言うとったで」
「却下や。なんで僕がそんなん撮らなあかんねん」
「ほらやっぱりムッツリや」
知ってるぞ、と言わんばかりの顔で、
うわぁぁぁ、と甲高い女子たちの歓声が聞こえた。
「すごいヒメちゃん、これ全部持ってきたん?」
「うん、調べたら市民プール持ち込みOKだったから」
「めっちゃ遊べるやん!」
「楽しそー♪」
口々に騒ぐ女子たちの足元には、へしゃげた浮き輪やビーチボール、ビニールボートなんかが、いつの間にかきちんと並べられていた。
「男子に膨らましてもらお!」
「もしかして口で、とか言わんよな」
「イヤきっとヒメちゃんのことや。空気入れも持ってきてるに違いない!」
僕らは半分引きつりながら話し合う…… が。
どんなによく見ても、誰も。
オモチャ用の空気入れさえ、持っていない。
その間にも女子たちは近寄ってきて、僕らに次々とブツを差し出してくる。
「まじでこれやるんか?」
「いややるしかないやろ」
誰も言わないが、いつもより断りにくいのが本音である。
たとえ17歳のナッちゃんほどでなくても、露出が少なめのTシャツタイプばかりであろうと、水着の威力はすごいのだ。
けれど。
「ヒメちゃん見てないのにヤル気せぇへんわ、なぁ?」