チカ、チカ、チカ……
気づけば、一面星の瞬く空間に私はいた。
上も下も。
星以外は何も見えない。
…… ここはどこだろう。
ぼんやり考える。
プカプカ浮かんでいるようだが、手足は動かせない。
…… 私は、どうなったのだろう。
記憶はしっかりしているようだ。
最も遠い記憶は、3歳頃。
当時流行っていた宇宙戦隊の真似をして塀から飛び降り、怪我をした。
痛かった上に怒られて納得いかなかったものだが…… あれは私を心配したからこそ、と思える程度には大人になっているようだ。
そうだ、私は何の変哲もないブラック企業のサラリーマンで、ひたすら妻子のために働く日々だったはずだ。
今日は珍しく健康診断で、病院に来ている。確か最新の機器でストレス値を測るとかで、昔のCTスキャンのような機械の中に横たわっていたような。
その時流れていた、心落ち着く音楽は聞こえない…… ということは、私は眠ってしまっているのだろう。
最近疲れているからな。
測定が終わるまで、もう一眠りしてもいい。
目覚めることはやめて、私はゆったりと星を眺める。
…… 宇宙か。
昔、憧れたな。
…… あれ。
でも宇宙の中なら、なぜ星が瞬くのだろう…… ああ、夢だからか。
そうだ、ここを星の森と名付けよう。
きっと私は今、この星の森の主…… 動いたら、美しい森を壊してしまうから動けない、何か大きな生き物…… そうだな、ドラゴンにでもなっているのだろう。
星の森のドラゴン。
星が瞬き、時が過ぎ行くのをただ眺める…… 静かに、静かに。
…… 時々眠って見る夢では、私は相変わらず働いている。
何日も会社に泊まり込む。
帰宅すれば、妻が子供を連れて実家に行ってる。
すぐには迎えに行く元気がなくて、泥のように眠る……
目覚めればまた、美しいが変化のない星の森。
夢の中は大変なことになっている。
妻子を迎えに行く車の運転中、不意にかかる衝撃。自分が乗ってる筈の車が、追突されて横転する映像が見える……。
目覚めた時まず見えたのは、心配そうな妻と子の顔。
そして医師の顔。
「健康診断は……」
いや、まだ夢の続きなのか。
「その健康診断の折から記憶を移し始めた培養脳を移植したんです。事故で脳死状態でしたから」
培養脳モニター契約、良いタイミングでしたね、と医師が言う。
「無事で良かった……」
妻子が涙ぐむ。
しかし本当に、私の妻子だろうか。
私の身体はまだあの星の森に、ひっそり横たわっているのでは、ないのだろうか……