毎年二回、いや三回は悩むことがある。
それはハルくんの誕生日と交際記念日とクリスマスだ。
この三回はアタシという人間にとって物凄くプレッシャーがかかる日だ。
「……なんで隠れてるんですか?」
駅で雅彦くんと待ち合わせをしていたのだが――見つかってしまった。
「あ、いや、なんか、やっぱアタシって雅彦くんと二人で会うことに抵抗感というか、罪悪感というかがあって……」
「それなら通話とかメッセージとか、他にも手段が――っていうか、そもそも呼び出した本人が隠れないでくださいよ」
「いや、だって大事な話っていうのはやっぱり直接会って話さないとイケナイかなと思って……。でもさぁ……」
「平野先輩ってホント根が真面目ですよね」
ジトっとした眼でそういうこと言わないでよ! 恥ずかしい!
他のみんなの方がよっぽど真面目でしょ!
「あっ! アタシと雅彦くんの今日の服、ダッフルコートにジーパンとお揃いでペアルックみたいじゃん……!!」
「僕も平野先輩も高校時代のコート着てるだけじゃないですか。それに脱いだら僕はタートルネックで先輩はセーターだから、別にお揃いじゃないですし」
「た、確かに……! じゃあすぐ喫茶店にでも行こう! すぐ脱ごう!!」
「脱ぐって……」
◇ ◇ ◇
なんやかんやでいつもとは違う喫茶店に入って、私はオレンジジュース、雅彦くんはブラックコーヒーを頼んだ。
何となくだけど、いつもの喫茶店に入るとヒカリちゃんやハルくん、他にも見知った人と遭遇してしまうのではないかという気がして後ろめたかったからだ。
ん、いや。いつもと違うところに入った方が浮気っぽいのか?
うがぁー!! どうすればいいんだぁー!!
「……何というか、薄々気が付いていましたけど、加藤先輩と付き合ってから平野先輩って結構面倒になりましたよね」
「なんでさー! 面倒って言うなぁー!!」
「加藤先輩への愛が重いっていうか、一旦好きになったら一直線ですよね。良し悪しは別として」
むむむ、自覚はあるけど改めて人から指摘されると悔しい……。
逆に高校時代はギクシャクして初々しかったヒカリちゃんと雅彦くんは、もう結婚して何年も経ってるんじゃないかってくらい落ち着いてるしぃー!!
ほら! 今も落ち着いてブラックコーヒー飲んでるしさぁ!
ハルくんよりもよっぽど雅彦君の方が落ち着きがあるようになってるじゃん!
いや、紅茶にバカみたいに砂糖入れて飲むハルくんも好きだよ!?
違う! 何言ってんだー! アタシはぁー!!
「えーっと、勝手に一人でうがうがしているところ申し訳ないんですけど、そろそろ本題に入ってもらってもいいですか……?」
「ああぁ……。えーっとね、ハルくんへのクリスマスプレゼントをどうしようかと思って……」
「うーん、まぁ、そうだろうとは思ってました」
バレてたかぁ…。まぁこの十二月も半ばに入った時期に相談と言ったらそれくらいだよね。別に不仲で困っているわけでもないし。
「先に僕の想像を話してもいいですか?」
「うん、いいよ」
「多分『無理していつもよりバイト多めに入って、ちょっと高価なものをプレゼントしようと思っているけど、加藤先輩の欲しいものがわからなくて困ってる』って感じですよね?」
「………………」
全部当てるとか怖くない?
怖い怖い! アタシよりもアタシのこと知ってるじゃん!
「図星っぽいですね。ヒントからいきますか? 一気に答えからいきますか?」
「こわっ! なんでそんな落ち着いてんの!?」
「いや、だって平野先輩、早くお開きにしたそうですし」
「いやいやいや、そうかもしれないけどサ!」
雅彦くんが大人っぽくなっているレベルを超えて達観してきている!
ハルくんよりも落ち着きがあるというか、アタシとハルくんが成長しないまま、ヒカリちゃんと雅彦くんが一気に成長してしまっていると言った方が正しいのかッ!?
「じゃあ、ヒントです。加藤先輩って形に残るものと形に残らないもののどっちが欲しいと思います?」
形に残るものと残らないものかぁ……。
何となくだけど私自身も形に残るものが欲しいというのもある。
「……それなら残るものだと思う。何となくだけど」
「なるほど、じゃあ次のヒントです。高い物と安い物とどっちが欲しいと思います?」
「そりゃ、高い物の方が喜ぶかなって」
「――つまり、平野先輩は『高価で形に残る物』をプレゼントすれば喜ぶと思っているわけですね」
うーん、そうなのかな……? なんか違和感がある。
「確かに、今話した内容だとそうかもしれないけど、何か……」
「違うというか、違和感ありますよね? きっと」
「うん、何か私の想いと違う気がする」
「多分、さっきのは『平野先輩が贈って満足するプレゼント』であって『加藤先輩が貰って喜ぶプレゼント』じゃないんですよ。だから何をプレゼントしていいのかわからなかったんだと思います」
――
こんなことアタシ一人じゃ絶対に気づかなかったよ。
「そっか、アタシは『何かを渡さなきゃ』とか『高い物を渡さなきゃ』とか、そういうことばかり考えていたかも。手段と目的が逆転してたわけだ、なるほどなぁ……」
何かを渡せば喜ぶ。高い物を渡せば喜ぶ。
それは全て私が勝手に思い描いていた想像だ。
もちろん、実際に喜んでくれるかもしれないけど、それは手段と結果があるだけで目的が抜けている。
『ハルくんが喜ぶ』という目的が一番重要なのに。
「お金を使わなきゃとか何かプレゼントしなきゃとかって考えずに、二人で楽しむことが大事だと僕は思います。これが事前に用意していた僕の答えです。もちろん、二人が楽しむためにお金を使うんであればいいとは思いますけどね」
「確かに、最初に戻っちゃうけど形が残る物と残らない物っていう話も、旅行とかなんかもそうだよね。楽しむことが大事で行く場所は別にどこだっていい」
「そうですね、楽しむためにどこかへ行く。喜んでほしいという気持ちがこもっていればどんなプレゼントでも良い――それこそ、二人で一緒に行った公園で拾ったどんぐりがプレゼントでも良いと思います」
雅彦くんが優しそうな笑みを浮かべる。
ヒカリちゃんはこの笑顔をいつも見れるんだ、ちょっと羨ましいかも。
「うん、なんかスッキリした。とりあえず何をプレゼントするとか遊びにいくとかはこの場ですぐには決められないけど、迷うことはなくなったよ」
「良かったです――っというわけで、今年のクリスマスはお二人で満喫してきてくださいね」
「えぇー。四人で一緒にパーティーして楽しもうよぉー!」
「ははは。面白い冗談言いますね、今年一番笑いましたよ。駄目です、クリスマスは二人で過ごしてきてください」
「今のが一番面白いって、どんだけヒカリちゃんと寂しい一年歩んできたの!? ちゃんと楽しんで!!」
こうしてアタシたちの年末はわちゃわちゃしながら過ぎていった。