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Ex11「クリスマスプレゼントなにがいいんだろ?」

 毎年二回、いや三回は悩むことがある。


 それは平野先輩の誕生日と交際記念日とクリスマスだ。


 この三回は俺という人間にとって物凄くプレッシャーがかかる日だ。


「それで、愛さんへのクリスマスプレゼントを私に頼ってきたわけ――と」


 最寄りの大きい駅の構内で、俺とヒカリ――今となっては珍しい組み合わせで待ち合わせをしていた。


 なんていう名前か知らんがボタンとかベルトっぽいのが色々ついてる白くてカッコイイロングコートに黒のロングスカート、相変わらず良い見た目の恰好をしやがって。


 俺なんてデパートに売ってる適当なブラウンのアウターだってのに。


「悪いかよ。お前らホント、高校時代のギクシャクしてた頃と違って、大学に入ってからは長年連れ添った夫婦みたいな付き合い方しやがって……! そういうお前はプレゼント何にするんだよ」


「私と雅彦くんはそういうプレゼントはお互いに全部なしってことで決めてるから」


「なんだそれ、ずりぃな……」


「こういう付き合い方もありだと思うよ? 実際にお互い気を遣わなくてもいいし」


「うーん、そういうもんか?」


 確かに効率的ではあるけど、何というかやっぱりプレゼントを渡したいし、貰ったら嬉しい。


 もちろん、そのためにこうやって毎年三回も頭を悩ませているんだが……。


 そんな雑談をしながら、駅ナカのデパートをウィンドウショッピングしながら二人で歩き始めた。


「ハルくん、ちなみに予算はいくら?」


「多くて三万までかなぁ。ここのためにちょっと多めにバイト入れてたし」


「うーん……」


 ヒカリが腕を組みながら斜め右上を見ている。


 別に何があるわけではない。むしろ商品があるのは下だ。


「なんだよ、足らないか?」


「ううん、逆。多すぎると思う」


 少し真面目な顔をしたヒカリが俺の顔を見る。


 まさか多すぎると言われるとは思わなかった。大は小を兼ねるというから、多くて困ることはないという認識だったのだが。


「愛さん、美大の学費のために結構無理してバイト入れてるし、そこから普段私たちと遊ぶお金も出してるわけだしさ。ハルくんが高いものを渡しちゃったら、愛さんもそれに見合ったものを渡さなくちゃ――ってなるでしょ?」


 そうか……。確かに自分も無意識のうちに平野先輩から貰ったプレゼントに見合ったものを渡さなきゃとは思っていた。


 いや、むしろそれ以上に価値のある物を渡したいという気持ちが強くなっていたのは事実だ。


 我欲がよくというほどではないが、自己中心的な考えと言えばそうかもしれない。


「むむむ、確かにお前らがプレゼントをなしにしてる理由がよくわかってきた……」


「意外と難しいんだよねぇ、プレゼント選びって。ハルくんってそういうの結構苦手だと思うし」


 勝手に人の苦手を決めるんじゃない。


 まぁ、人生の八割くらい付き合っているんだからわかるかもしれないけど……。


 いや、でも、俺ってヒカリの苦手なものとかわかるのか……? うーん、自信がないかもしれんな。


「それじゃあ、私が独断で決めるけど予算は高くても一万円まで!」


「まぁ、予算が減る分には別に困らんからいいが」


「あと、これはハルくんに決めて欲しいんだけど、形に残るものがいい? それとも残らないものがいい?」


 形に残るものか……。時計とかアクセサリーとか財布とか、漠然とそういう形に残るものを先輩の手元に――というイメージでいたが。


「俺はさ、勝手に形に残るものっていう前提でいたんだが、残らないもののメリットってなんなんだ?」


「そうだなぁ。ハルくんはさ、愛さんと旅行へいったり、私たちが四人で遊んだりしているのって無駄だと思う?」


 ――やっぱりヒカリと買い物に来て正解だった。悔しいけど、こいつは俺よりもずっと経験値もあるし、人のことをよく見ている。


 それに俺の表情だけ見て何を考えたのかまで読み取ってやがる。くそ。


「例えば、二人でお金を出し合って旅行に行くのもいいし、遊園地に遊びに行ってもいい。いつもよりちょっと高いご飯を食べるので十分。極端な話、二人が楽しめるなら全くお金を使わずに公園で過ごすだけでもいいんじゃないかな? 相手に物を渡すのが目的じゃなくて、相手に喜んでもらうのが目的でしょ? こういうことって手段と目的が逆になっちゃいがちなんだよね」


「……お前って、なんかすげぇな」


「ふふん、あがたてまつたまえー」


 手を腰に当てて鼻高々に不敵な笑みを浮かべている。


 幼稚園のころから始まって中学生、高校生と少しずつ明るくなってきたのは見てきたけど、雅彦と付き合いだして――そして大学生になってから一層明るくなった気がする。


「そうだな、今まで形に残るものばかりだったから、たまには形に残らないプレゼント――『思い出』に金をかけるっていうのも悪くないかもな」


「なんだったら、それとなく愛さんに話題振っておいてあげるよ?」


「いや、自分で言うよ。俺が『カレシ』なんだからな」


 今度は俺の方が不敵な笑みを見せてやった。


「カッコイイこと言うねぇ、ハルくぅん」


 お前のおかげで、何だか一歩成長できた気がするよ……ホント。


「じゃあ、今日は何も買わずに私とデートして終わり?」


「付き合ってもらったのに悪いな、せっかくだから飯くらいならおごってやるよ」


「じゃあ、ここのビルの十五階のビュッフェでもいい?」


 両手を後ろで組んで俺の顔を覗いてきやがる。


「なにそれ、面白いこというなぁ。今年一番笑ったわ」


「今のが一番面白いって、もっと愛さんと楽しい一年を歩んでよ!!」


 こうして俺たちの年末はわちゃわちゃしながら過ぎていった。


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