俺が大学へ進学し、平野先輩が
違う大学に通っているから週末にしか会えないのが残念だが、今日もまた
「人間ってさ、その人の
喫茶店で毒にも薬にもならない会話をする俺と先輩。相変わらず先輩は突然話題を振ってくる。
「何か聞いたことがある話ですね、それ。確かに香水とか
俺は紅茶を飲みながら話を聞いているが、話をしている側の先輩はパフェとオレンジジュースを飲みながら話をしている。別にだから何というわけではないが。
「それでさ、この前大学の廊下ですれ違った男子が何か凄く私の好きな匂いだったんだよね」
「へぇー」
ふーん、なるほどね。なるほど、ふーん。
「それで気がついたんだけど、その匂いってハルくんが使ってる
先輩がニコニコしながらパフェをパクパクと食べている。
俺の匂いが好きってのは嬉しいし、何なら
ただ、同じ匂いの制汗剤――まぁ、正確にいえば制汗シートなんだけど、それを使っている人に一瞬でも気が向いてしまうというのは何か悔しい。
かと言って使わないというのは俺自身が臭いを気にしてしまうし、なんとも身動きが取れない状況だ。
「……先輩、好きになるのは俺の匂いだけにしてください」
「ん? だから言ってるじゃん、好きな匂いはハルくんの匂いだったって」
「ちょっと違うんです。先輩が好きなのって結局は俺の使ってる制汗剤の匂いじゃないですか……」
自分でも何を言ってるのかよくわからなくなってきたが、とりあえず恥ずかしい事を言っているという自覚はある。
「……フフッ。ハルくんってさ、時々そうやって子供っぽくなるよね。まぁ、アタシはそういうところも好きだけどね」
パフェを食べてオレンジジュースを飲んでいる人に子供っぽいと言われると複雑な気持ちになるけど、確かに今のは子供っぽい
「よし、ごちそうさまでした。今日はお詫びにアタシが奢るよ」
止める間もなく
「今回はいいですけど、代わりに次は俺に
会計を済ませた先輩と一緒に喫茶店を出たはずが横には先輩の姿がなく、突然先輩が後ろから軽く抱きついてきた。
「うーん、やっぱり……。この制汗剤とキミの汗が混じった匂い……」
俺の首筋の匂いを鼻でスーハーと一息嗅いだ先輩が耳元で
「アタシが好きなのはこの匂いだけだよ……」
あぁ、やっぱり俺はこの人には振り回されて勝てないんだなって改めて実感させられた瞬間だった。