その一軒家の
有紀奈が
「うわー、篠崎さん久しぶり! 突然だからびっくりしちゃったよ、とりあえず入って入って。お連れの方もどうぞどうぞ」
出てきたのは一回り年齢を重ねた雅彦だった。しかし、歳をとってもすぐわかる、
言われるがまま家にあがると、雅彦はそのままリビングへと慌ただしく入っていった。
「お
「そこが彼の良いところよ……」
玄関に留まっていると、リビングからは何やら会話をする声が聞こえてくる。
『――やっぱり僕たちの方が正しかったんだって! 篠崎さんはいたんだよ!』
『雅彦くんや私達の記憶違いだとは思わなかったけど……。他の人達が誰も覚えてないのはどうしてなんだろ?』
『何かちょっと変わった
『もうハルくんはすーぐそうやって適当な事を言うんだから! まぁでも魔女ってのは面白いかもしれないけどね、ハッハッハ』
『それよりも雅彦くん、玄関じゃなくて入ってもらったら? 私はお茶の準備するから』
『確かにそうだね、ありがとうヒカリさん』
聞き覚えのある声が奥から聞こえてきた。もはや懐かしさすら感じてしまうその声に俺はもう混ざることは無い。
「お前学校でなにやったんだよ……」
「ステラを殺したあとに全員の記憶から私を消して学校から去ったのよ……。レイラフォードとルーラシードには私の能力が効かないから、この四人にだけ私の事が残ったままになってるってわけ……。仕方ないでしょ……」
確かにいつまでも学校に残るわけにも行かないだろうけど……。
「篠崎さん、せっかく来てくれたんだから上がってお茶くらい飲んでいってよ。篠崎さんからしたら
「ありがとう、でも玄関先で十分よ……。気持ちだけで受け取っておくわ……。今日はね、安藤君に正式にお別れを言いに来たの……。これからずっと遠い場所に行って二度と帰ってこないつもりなのよ……」
「えっ!? そんな、せっかく久しぶりに会えたと思ったのに」
「だから、あまり長く話してるとお別れが
有紀奈は今まで見せたことのない優しい顔をして雅彦の顔を見つめていた。
それは血塗られた魔女でも、何百年も世界を渡る者でもなく、ただ一人の少女のようだった。
「えっと――ありがとう。篠崎さんっていつも冗談みたいなこと言ってたけど、どれも本当のことばかりだったから、きっと今度も本当にもう会えないんだろうね……。僕も篠崎さんと話してて楽しかったし、篠崎さんのお
「その、付き人の俺が口を出すのもなんだが、本当にいいのか……? 俺と違って有紀奈は別にいつこの場所に来たって――」
「いいのよ、私だっていつまでも過去に
有紀奈も雅彦もどちらも少し
「……うーん、そうだ! 僕たちと縁を切ってもう会えなくても構わないけど、今後新しい縁を
「……どういうことかしら?」
「篠崎さんが繋げてくれた僕とヒカリさんとの縁が
「……!?」
「えぇ!? お前達男同士だろ!? って、あ、いや失礼……」
名乗ってもいないただの連れという状態の俺が思わずツッコミを入れて
「お連れさんも篠崎さんから僕たちのことを聞いているのかな、確かに僕とヒカリさんは男性同士だけど、いわゆる試験管ベビーってやつのもっとすごいバージョンみたいなやつを僕とヒカリさんが通ってた大学が国と協力して研究しててさ。精子の中のなにやらを取り出してうんたらって僕はよくわからないんだけど、それの最終選考候補に
俺たちの方を見ながら雅彦は照れ笑いをしている。
何というかこいつの行動力と明るさには勝てる気がしない。
「驚いたわ……。本当にこの世界は最後の最後まで私を楽しませてくれるのね……」
閉じた世界であっても分岐しないだけで、結果はまだ誰も知らない。
この世界の結果を知っていたのは俺だけだったが、その俺も今のこの世界の結果はもう知らない。有紀奈が驚いた姿を見て改めてそう実感した。
そして、この世界にもう俺は必要無くなっているのだということも改めて実感させられた。もちろん個人的に良い意味でだ。
俺がいなくても四人は上手くやっていくし、幸せになっていく。
俺はもう、俺が必要とされている世界へ行くべきなんだろう……。
「お子さんの名前はもう考えているの……?」
「えっと、まだまだ気が早いって言われるかもしれないけど色々と候補は考えてて、まだ確定ではないんだけど――」
雅彦から聞いたその名前は俺にとってはなんてことのない普通の名前だったが、有紀奈はその名前を聞くと
「不思議と聞いたことがある名前ね……遠い昔に……」
有紀奈がちらりとこちらを向く。気のせいか、目元が少し光っているように見えた。
「あぁ、俺の方は十分すぎるくらい満足したよ」
どこか
「それじゃあね、安藤くん……。あなたとはもう会わないでしょうけど、新しい縁があればまたどこかで会えるといいわね……」
そう言い残すと、俺と有紀奈は次の世界へと旅立った。
ある美漢/恨み感=Re:cycle
THE END