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#70 Re:cycle 第17話

 俺が自分の生まれ育った世界――正確に言えば時間軸は違うが、この世界を離れて随分ずいぶんと時間が経った。


 俺もまた肉体というかせからだっし『シキ』という名前で世界を渡る者となって有紀奈の後を付いて他の世界へ旅をしている。


 まだ短い時間だが有紀奈と旅をしてわかったことがある。


 有紀奈が殺すレイラフォードは、ルーラシードと結ばれそうなレイラフォードだけだった。あいつはカッコつけてなんて言っているが、実際のところは運命で結ばれた二人がうらやましいだけなのかもしれない。


 俺自身、有紀奈がレイラフォードを殺すのを何度も止めようとしているが、全てに愛される力ラヴズオンリーミーで大勢の人々をあやつって妨害ぼうがい阻止そししてくる。


 俺自身を殺さないのは彼女なりの温情おんじょうなのかもしれない。



 そんな有紀奈が珍しく行ったことのある世界へ再び行くというので同行したところ、それは俺が生まれ育った世界――正しく言えば『恨み感』の世界だった。


「わかってて聞くのも何だけど、どうしてこの世界にはレイラフォードもルーラシードも二人ずついるんだろうな。それに他の世界で見たヒカリはみんな女だった、なんでこの世界だけ男なんだろうか」


 合流した俺は有紀奈に声をかけた。


「さぁ……? 私に赤い糸を切られるのが嫌だったんじゃない……?」


 冗談じょうだんめいて不敵ふてきな笑みを浮かべる有紀奈だったが、あながち間違いではないのかもしれない。


 有紀奈という世界にとっての脅威きょういが生んだ防衛機能ぼうえいきのうなのだと俺は勝手に解釈かいしゃくした。


「私はね、この『恨み感』の世界を気に入っている点が二つあるのよ……。一つはレイラが必ず負けを認めて泣きながらくやしがるところ……」


「……だろうな、もう一つは?」


「あなたという存在よ……」


 急にめられたというか気に入られていたという発言に驚きを隠せなかった。


「シキ、あなたが好きだったのは平野愛――でしょ……?」


「あー、いや、うん、まぁ、その、なんだ……」


「そういうところはホントに面倒な男ね……。もう子供でもないんだから別に今更ずかしがるような内容でもないでしょ……」


「まぁ、そうだけど……」


 そうは言われても言いづらいものはある。今後俺は永久えいきゅうかなわぬ片思かたおもいをし続けるんだ。


 俺の好きな平野愛という人は『恨み感』の平野愛ではなく、どこかの並行世界にいる別の平野愛でもなく、俺が一緒にイルカショーを見た『ある美漢』の平野先輩だけだ。同じ人物かもしれないけど、それはよく似た別人なんだ。


 いくつになっても片思いの相手の名をげるのは恥ずかしいんだよ。


「まぁとにかく、私はそこが気に入ったのよ、あなたが平野愛を好きだというところ……。あなた本人が気づいているか知らないけど、あなたと強く赤い糸で結ばれていたのは明らかに氷川ヒカリの方だったわ……。他の並行世界でもそう、あなたは何かあれば氷川ヒカリの事を考え、氷川ヒカリもまたあなたの事を気にしている様子だった……」


「確かに言われてみれはそうだったかもしれないが、幼馴染おさななじみなんだから気にかけるのは当然――ってのも有紀奈から見れば惹かれてる相手ってことになるか」


「この世界――『ある美漢』と『恨み感』という物語は実のところだった……。それが氷川ヒカリは安藤雅彦と――加藤春昭は平野愛とかれ合った……。本来かれるべき相手では無く、別の相手を好きになった……。もちろんそれでもまだ運命に選ばれた者ではあるけれども、私が追い求めている姿をあなた達は私に見せてくれたのよ……。繋がりが弱い世界だとはいえ結ばれるべきレイラフォードとルーラシードが運命に打ち勝ち、自らの意志で結ばれた世界……。そしてその想いを持つことが出来たあなた自身のことも気に入っているわ……」


 有紀奈は今までになく優しく、嬉しそうな笑顔を俺に見せた。


「それを言うなら俺よりも雅彦の方がすごいんじゃないか……? 本来なら俺と惹かれるべきだったヒカリと――しかも男同士でだ」


「そうね……。もし私の隣を歩んでいるのが安藤くんだったら違った感想を持つかもしれないけれど……。今歩んでいるのはシキ――あなたでしょ……?」


 少しドキリとするようなことをこいつは突然言う。


 いや、俺がいまだにこういうことを言われるのに慣れていないだけなのかもしれない。


「だからというわけではないけど、この世界にまた来たのはあなたへの褒美ほうびと私の決別けつべつのためよ……」


 有紀奈について向かった先はまだ新築して間もない一軒家だった。

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