俺が自分の生まれ育った世界――正確に言えば時間軸は違うが、この世界を離れて
俺もまた肉体という
まだ短い時間だが有紀奈と旅をしてわかったことがある。
有紀奈が殺すレイラフォードは、ルーラシードと結ばれそうなレイラフォードだけだった。あいつはカッコつけて
俺自身、有紀奈がレイラフォードを殺すのを何度も止めようとしているが、
俺自身を殺さないのは彼女なりの
そんな有紀奈が珍しく行ったことのある世界へ再び行くというので同行したところ、それは俺が生まれ育った世界――正しく言えば『恨み感』の世界だった。
「わかってて聞くのも何だけど、どうしてこの世界にはレイラフォードもルーラシードも二人ずついるんだろうな。それに他の世界で見たヒカリはみんな女だった、なんでこの世界だけ男なんだろうか」
合流した俺は有紀奈に声をかけた。
「さぁ……? 私に赤い糸を切られるのが嫌だったんじゃない……?」
有紀奈という世界にとっての
「私はね、この『恨み感』の世界を気に入っている点が二つあるのよ……。一つはレイラが必ず負けを認めて泣きながら
「……だろうな、もう一つは?」
「あなたという存在よ……」
急に
「シキ、あなたが好きだったのは平野愛――でしょ……?」
「あー、いや、うん、まぁ、その、なんだ……」
「そういうところはホントに面倒な男ね……。もう子供でもないんだから別に今更
「まぁ、そうだけど……」
そうは言われても言いづらいものはある。今後俺は
俺の好きな平野愛という人は『恨み感』の平野愛ではなく、どこかの並行世界にいる別の平野愛でもなく、俺が一緒にイルカショーを見た『ある美漢』の平野先輩だけだ。同じ人物かもしれないけど、それはよく似た別人なんだ。
いくつになっても片思いの相手の名を
「まぁとにかく、私はそこが気に入ったのよ、あなたが平野愛を好きだというところ……。あなた本人が気づいているか知らないけど、あなたと強く赤い糸で結ばれていたのは明らかに氷川ヒカリの方だったわ……。他の並行世界でもそう、あなたは何かあれば氷川ヒカリの事を考え、氷川ヒカリもまたあなたの事を気にしている様子だった……」
「確かに言われてみれはそうだったかもしれないが、
「この世界――『ある美漢』と『恨み感』という物語は実のところ
有紀奈は今までになく優しく、嬉しそうな笑顔を俺に見せた。
「それを言うなら俺よりも雅彦の方がすごいんじゃないか……? 本来なら俺と惹かれるべきだったヒカリと――しかも男同士でだ」
「そうね……。もし私の隣を歩んでいるのが安藤くんだったら違った感想を持つかもしれないけれど……。今歩んでいるのはシキ――あなたでしょ……?」
少しドキリとするようなことをこいつは突然言う。
いや、俺が
「だからというわけではないけど、この世界にまた来たのはあなたへの
有紀奈について向かった先はまだ新築して間もない一軒家だった。