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#59 Re:cycle 第6話

 あれから数日後、彼女は再び俺の病室を訪れてきた。


 しかし、不思議なことにやはり彼女が病室に来ても誰も彼女のことを意識していない様子だった。


「その、この前もそうだったけど、どうして身寄りの無い俺のところに人が尋ねてきたっていうのに、みんな平然としているんだ……? あんたが何かしているのか?」


「あなたが時を止められるように、私はどんなことでも人にすることができるの……。この能力の名前は全てに愛される力ラヴズオンリーミー、いい名前でしょ……?」


 自分の能力に名前をつけているのか……。いや、つけるのはまだしも、つけてる名前が何と言うか……その……。まぁ、個人の自由か……。


「あなたと話をするのを変に邪魔をされたくないから、私の存在を認識出来ないようにしているのよ……」


「それはありがたい話だが、どうして俺にここまで色々としてくれるんだ……? 超能力が使えたからというのは結果論だし、前の時間軸でも大して交流があったわけでもない。一体なぜだ?」


 まだ首も動かせないから彼女の姿をしっかりと見ることができない。


 そう思っていると、彼女の方から俺の視界に入るよう顔を近づけてきた。


「あなたが現れたときに放たれた雷の色は赤と黒だった……。私達の使う能力には様々な色があるの……。あなたを殺そうとしたステラや部活の顧問のヨーコは無色透明の光、ステラの飼い主のレイラは青白い光……。そして私の色はあの光と同じ赤と黒、だから私と縁があると思って面白半分で助けてみたのよ……。まぁ、どうもその光は前の時間軸の氷川ヒカリのものだったみたいだけど……」


 面白半分の気まぐれで生かされたのか。たまったもんじゃないな……。

 いや、それでも彼女が助けてくれたことに違いはないんだ、理由はさておき命の恩人に違いはない。


「それにしても、これから何度も時間軸の事を話すんだから、わかりやすく名前でもつけようかしら……。どんなものでも名前をつけると愛着が湧くしね……。前の時間軸の名前を――そうね……」


 ふとBGM代わりに流していたテレビから、炭酸飲料のコマーシャルが流れているのが目についた。


 思えばどうしてテレビで今が何年なのか知ることがなかったのだろうか……。

 全てに絶望していて何もかも頭に入ってこなかったのもあるが、気にもしていないことなど所詮しょせんはこんなものなのだろうか……。


「――私は五歳くらいの姿しか知らないけど、高校生になった氷川ヒカリは美人だったのよね……?」


 彼女はテレビの画面を見ながらこちらに話しかける。


「あぁ、まぁ。男だったけどな……」


「じゃあ、前の時間軸を氷川ヒカリにちなんで『とある美しいおとこ』の世界……。略して『ある美漢みかん』という名前にするわ……。思いつきにしてはいい名前でしょ……?」


 アルミ缶って……。ネーミングセンスについては自分も大したことを言えないから、あまり反対意見を言うことができないけどさ……。その……なんだ……。


「そして、この世界は本来は存在しないはずの『裏』の世界、こちらの世界の主人公はステラに対する『恨み』という感情の塊でできたあなたの世界……。そうね、表のある美漢みかんいんを踏んで『うらかん』にでもしましょ……」


 恨み……か……。この感情は恨みなのか……? それとも……。一体何なんだろうか。


「ちょっと待って、スゴいことを思いついたわ……。氷川ヒカリが使ったタイムスリップの能力もアルミ缶にちなんで【Re:cycleリ・サイクル】っていうのはどうかしら……?」


 もう好きにしてくれ……。


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