さっきまで彼女に会ってから興奮して一気に話をしてしまったので、少し落ち着いてきたからか首の傷口に強い痛みが出始めている。

　それでも、ようやく俺のことを知る人間と出会ったんだ。俺は彼女と話がしたくて堪らなかった。

「あなたが言うには、前の世界は氷川ヒカリによって十年という時間が戻され、今改めてこの過去の世界へ戻ってきたと……」

「あぁ、その通りだ」

「それなら、そのタイムスリップ関連で確認したいことがあるわ……。超能力、魔法、神通力、好きな名前で呼ぶと良いわ……。あなたが言うには、氷川ヒカリの能力ちからによって、生存していたあなただけが時を遡さかのぼってきた……」

　肯定したくないが事実だ、目を背けるわけにはいかない……。

「そこで確認したいのは、あなた自身には何か能力が覚醒した形跡はないのかしら……？　この能力は想いの力、氷川ヒカリが過去に戻りたいと強く願った想いが具現化されたように、あなた自身にも能力が具現化している可能性は高いと思うの……」

「そんな都合のいい話なんて――」

　その時、ふと脳裏に苦しかったあの瞬間のことが思い出される。

　物理的な痛みや苦しみだけではない、意識が消えるまでの時間。みんなが死んでしまったという記憶。凝視ぎょうしした敵の顔。死にたくないと願った時間。

　まるで無限のように永い時間だった。

　――時間……？

「いや、もしかしたらという程度かもしれないが……。なぁ、その能力ちからってやつはどうやったら使えるんだ？」

「特殊な条件でも無い限りは使いたいと願うだけよ……」

「なるほど……」

　試しに俺は願ってみた、時・間・よ・止・ま・れ・と……。

■　■　■　■　■

　――辺りから音が消え、時計の秒針は止まり、目の前にいる彼女は瞬まばたきをしないまま少しだけ口を開けて固まっている。

　空気はピリピリと凍いてついたように肌を刺激し、窓から差し込む太陽光は切り取って持つことができそうな狂った感覚に陥おちいる。

　身体を殆ど動かせない今の俺に取っては時が止まったからと言ってなにか出来ることが増えるわけではないが、少なくとも呼吸は出来るようだった。

　ただただ、得えも言いえぬ興奮や万能感ばんのうかんが湧わき上あがってくる。

　しかし、時が止まってしばらくすると漠然ばくぜんと身体中に少しずつ痛みが走り出してきた。

　少しずつ止まった時間の中で経過する時間とともに少しずつ痛みが強くなっていく。

　危・な・い・

　頭にそうよぎったとき、本能的に能力を解除した。

■　■　■　■　■

　――俺が念じると再び時が動き出した。

「できた……。俺も能力ちからが使えるようになっていたようだ」

　いつの間にかまるで全力で走った後のように息が上がり、汗だくになっていた。

「どういうこと……？　私には何も起こっていないように感じたけど……」

「時間を止めることが出来たんだ、俺自身がまだ動けないから何も出来ないけど、数秒程度の短い時間なら使うことは出来たみたいだ」

　とんでもない能力を手に入れたようだ。生死をさまよった上に友人たちを失くし、そのうえ過去に飛ばされて、やっと手に入れたものだと思えば、割に合っているのかもしれない。

「思っていた以上にとんでもない能力が生まれたのね……。それだけあなたの想いの力が強かったということかしら……」

　流石に彼女も少し驚いている様子だった。

「能力を使えるようになったのなら、適用範囲はどこまでとか、限定的な利用が可能なのかとか、ある程度調べて把握しておくといいわ……。もちろん身体がある程度動くようになってからで構わないわ……。能力の全体像を把握してないと困るのは自分自身よ……」

　驚いたのも束つかの間、すぐに彼女のペースに戻ってしまった。

　これから彼女と付き合っていくには、まだまだ経験値が足りないようだ。