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#45 ある美漢 第23話

 アタシ、平野愛は待ちわびていた。


「ぶちょー、もう見学者も殆どいないし交代の時間結構すぎてるから、遊びに行ってもらって大丈夫ですよー」


 部員の一人に声をかけられた。


 美術部の展示は二名から多くて三名の当番で回しているけど、今はアタシを入れて四名もいる。さっきは雅彦くん待ちをしていたヒカリちゃんがいたけど、今は明らかに過剰かじょうなうえ、私の当番の時間は少し前に過ぎていた。


「うーん、そうだなぁー」


 余裕を持って時間を少し遅く伝えてしまったことを後悔しつつ、美術室の入り口に立って廊下をキョロキョロと見回しつつ色々と頭の中で迷っていると……。


「あれ? まだ当番の時間でしたか? 早く来すぎました?」


 春昭くんが何も知らないキョトンとした顔で美術室の中まで入ってきた。


「あぁ! 外! 外で!! いや、なんでもないヨ。えーっと、それじゃあみんな、お言葉に甘えてアタシは遊びに行ってくるネェー」


「誰それ、ぶちょー。彼氏ぃー!?」


「違う!!」


「うるせぇ! 彼氏持ちはみんなそう言うんだッ!! みんな! ぶちょーをとらえるぞ!! 事情聴取だ!」


「逃げるぞッ! 春昭くん!!」


 ◇ ◇ ◇


 追手を振り切るため、彼の手を引いて全力ダッシュで別の棟まで移動してきてしまった。


「なんだこの怒涛どとうの展開は……」


「ここまで来ればけたかな……。いやぁうちの部員が申し訳ないねぇ、彼女たちは心がガンマンがいそうな荒野のようにすさんでいるんだよ。さて、気を取り直して、どこに行こうかねぇ? 春昭くんはもう行ったところある?」


「いえ、せっかくなら全部初見しょけんで行こうと思って今日はずっと自分のクラスのところにいたんですよね。どこか先輩が行きたいところがあれば付き合いますよ」


「そうだなぁー。じゃあ、ヒカリちゃんのクラスの神社行ってみようかな? 最初に話聞いた時から結構気になってたんだよねぇ」


 あれ? 今更だけど、普段は四人で外出して遊んでたから気にならなかったけど、学校内を二人で散策するのってもしかしてこれは結構恥ずかしいのでは……?


 ヒカリちゃんと雅彦くんを二人にするためにわざわざ四人行動を避け、私と春昭くんの集合時間をずらしたけど、よくよく考えたら別に付き合ってるわけでもない私達まで二人で一緒に回る必要は無かったのでは……?


 何かホント色々と感覚が麻痺まひしてきてたんだなって、人間って怖いネ。いや、まぁ、別に嫌なわけではないんだけどさ……。


 ヒカリちゃんのクラスに来ると教室の入り口に段ボールで作られた鳥居とりいが貼り付けられていて、室内には社務所しゃむしょ拝殿はいでんらしき建物が段ボールで作られていた。


「思ったより気合入ってますね」


「だねぇ、とりあえずお参りしとこっか」


 教室内には巫女服みこふくを着た娘が二人と、見学している人たちが数人いる。おみくじや神社の施設を解説したパネルがあったりと、結構見どころが多そうな感じだった。


 お金を入れることができないように平面で作られた賽銭箱さいせんばこがあり、その前で二礼二拍手一礼にれいにはくしゅいちれいしてお願い事をする。何をお願いしようか迷ったけど、適当に健康で長生きをしたいとお願いをすることにした。まだまだ死にたくないしネ。


 参拝をしているといつの間にか後ろに人が並び始めていたので、他の展示もあまり目を通せていなかったけどさっさと歩いて移動を始めた。


「春昭くんはどんなお願いごとしたの? 億万長者おくまんちょうじゃとか?」


「先輩は俺のことどんな奴だと思ってるんですか……。正直、特に何も無かったから先輩の合格祈願ごうかくきがんをしておきましたよ、美大目指してるんでしたっけ?」


「なにそれー! ダメダメ! ちゃんと自分のことをお願いしないと!」


「いや、でも自分の事は特に無かったんで……」


「じゃあ、アタシが代わりに春昭くんの健康祈願けんこうきがんしてくるから! ちょっと待っててよ!!」


 結局また列に並んでもう一度お参りをしてきた。

 だって、自分だけアタシのことをお願いするなんて……そんなのズルじゃん?


「ヨシッ! オッケー! これで首を切られても生き残れるくらい丈夫じょうぶな身体になったはずだから!」


「それはもう健康とか関係無いレベルの話ですよね」


 彼の背中をバンバンと叩きながら廊下に出て話を続ける。


 ホント、気がつけば春昭くんとも随分ずいぶんと仲良くなったものだけど、元々はヒカリちゃんが私達四人を引き合わせてくれて、それが何故か勢いでそのまま四人で遊ぶようになって……。


 合縁奇縁あいえんきえんとは言うけど、出会ってからの時間はそこまで長くないけどずっと前から知り合いだったかのように相性がよく感じる。


 ただ、どうしても週末に四人全員で集まろうとすると都合が悪い人が出てきちゃうから、流石に毎週末集まるのは難しい。でも、集まれないからって全く遊ばないのも何か勿体ないし、なかなかムズカシイんだよねぇ。


「あー確かに。なかなか四人の都合を合わせるのも大変ですよね……」


 春昭くんが妙に口ごもり数秒│沈黙ちんもくすると。


「えーっと、だから――その、人数減らしてとかなら都合が合わせやすいんじゃないかと思うんですよね……。その、もし先輩の都合が良ければですけど、たまには気分を変えてどうかなと思って」


「え!? う、うーん、そうだねェ。四人で遊ぶのも楽しいけどたまには気分を変えて、ふ、二人でってのも良いかもしれないねぇ。うん、名案だ、絶対に楽しくなると思う、行こっか、一緒に……ネッ!」


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