#44 恨み感 第22話
「今日は担任の教師としてここから離れられない感じなのかしら……?」
文化祭当日、篠崎が自身のクラスの奥で退屈そうに椅子に座る政木に声をかけた。
「当然じゃろ……。近所の川の歴史なんぞというつまらん出し物にしよって……」
「提案と最終決定はヨーコがしたんでしょ……。いい大人が他人のせいにして恥ずかしく無いの……?」
「誰も声を上げぬからワシが過去の事例で適当に候補を挙げただけじゃぞ! 全く我が教え子達ながら情けない……」
「手本となる教師が情けないから教え子も情けなくなるのよ……。でもまぁ、そうは言っても私は結構楽しんでるわよ……。この世界のこの場所の歴史はこうだった……。それを自ら調べるなんて、並行世界を渡る私は絶対にやらないからなかなか有意義だったわ……」
篠崎は模造紙に手書きで書かれた年表や歴史を見つめて少しだけ嬉しそうな顔をする。
「殆どの者が嫌々ながらやっておったからな、そう思ってくれるのはお主だけかもしれんのう。捻くれていても率直な感想が聞けるという点においてはお主の存在は有り難いわ」
「あら、お世辞を言っても何も出ないわよ……」
「世辞を言って聞くような殊勝な輩だったなら幾らでも言ってやるわい。しかし、展示の感想も良いがそろそろお主のやっておることの真意を聞きたいところなのじゃが……。お主の事じゃ、ここまで協力してやっておる者に対して不義理は無いと思っておるのじゃが、まだその時ではないのか?」
政木が少しばかり目を細めて真剣な表情をする。
篠崎は展示されている高校近辺の河川図を見つめて、川上から川下に向かって人差し指でなぞり、河川が二つに分かれる地点――分水界で指を止める。
「もう既にこの世界の行く末を決める分水嶺は超えているわ……。あとは分水した川が氾濫しないように見守るだけよ……」
篠崎の指はそのまま本流ではなく支流の河川へと指を滑らす。
「詳しい事情は解らぬが、その時は近いと考えて良いのじゃな」
「えぇ……。最期の時は近いわ……」