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#41 ある美漢 第21話

 私、氷川ヒカリは満喫まんきつしていた。


 夏休みも終わり、二学期に入ったけど変わらず定期的に四人で集まっている。


 今日は昼過ぎからファミレスでドリンクバーでねばりながら、私はケーキを、愛さんはパフェを頼んで食べながら雑談をしている。


「そういえばもうすぐ文化祭だけど、みんなのクラスって何やるの?」


 愛さんが小さいスプーンでパフェのアイスクリームを食べながらみんなに話しかけた。


「俺のクラスは教室を使った巨大迷路きょだいめいろですね。しかも隣のクラスと合同で教室二つをつなげてやる予定です」


 口火くちびを切ったのはハルくんだった。


 ハルくんのクラスが何か大きいことをやるといううわさは耳にしていたけど、思ったより挑戦的な内容で驚いた。


「なにそれ! めっちゃ面白そうじゃーん!」


「二クラス合同だから人員も二倍だし、教室繋げるって言ってもコース的には廊下ろうかに一度出てまた教室に入るだけだから手間が増えるわけでもないし楽ですよ」


「へぇー、考えた人は頭いいと言うか、楽をするためには努力をしまないというか、どっちにしてもスゴいなぁ」


 そういいながら愛さんは溶けたアイスを下にあるコーンフレークにひたして、パクパクと口に運んでいた。


「僕のところはよくある展示系ですね。いまだに何の展示やるか決まってないくらいやる気が無いんですけどね。氷川さんのクラスは神社でしたっけ」


 安藤くんが突然私に話題を振ってきたから少しだけ戸惑とまどってしまった。


「う、うん。なんか段ボールとかで鳥居とりいとか賽銭箱さいせんばことか作って……。あ、あとおみくじもやりたいって案があったかな……?」


 クラスで何をやるか決めるときに、『神社をやりたい』っていう突拍子とっぴょうしもない案が出てきたときは驚いたけど『恋愛成就れんあいじょうじゅの神社がいいなぁ』とか『合格祈願ごうかくきがんも入れてほしい』とか『段ボールでいいから絵馬えまも作りたい』って、その後も色々と案が出てきて、気がついたら圧倒的多数で神社に決まっていた。


 あとで知ったけど、ノリノリだったのは大体が女子で、男子は『当日何もしなくても成立する展示だから楽でいい』という打算的ださんてきな理由での賛成が多かったらしい。


「へぇー、斬新ざんしんな展示だけどおもしろそうだねぇ。神社って事は神主かんぬしさんとか巫女みこさんとかもいるのかな?」


「あぁ、えっと……。実はクラスの子達から私に巫女をやって欲しいってお願いがあったんですけど、流石に恥ずかしいし、私なんかがやってもどうせ似合わないし、みんなに申し訳ないから美術部の展示の方があるからってお断りしたんです……」


 少しは着てみたいって気持ちもあったけど、そこから人前に出るっていうのは恥ずかしくて倒れてしまいそうだから、断ってしまった……。


 そもそも本気でお願いされていたのか、それともからかわれていたのかすら私にはわからなかったし……。


「えぇー、ヒカリちゃんなら絶対似合うと思うんだけどなぁ」


「俺らに聞いてばかりですけど、そういう平野先輩のクラスは何やるんですか?」


「え? 何もやらないよ? 三年生は受験が近いから文化祭のもよおし物はどのクラスも無いよ?」


「あぁ……。そういえばそうでしたね、忘れてました……」


 ハルくんが恥ずかしそうに手元にあるアイスティーを、手も使わずストローでチューチュー吸って飲んでいる。


 昔からハルくんは照れたり恥ずかしがったりするときに、誤魔化ごまかすように子供みたいな事をすることがある。本人は気がついているのかな?


「まぁでも、アタシの場合は美術部の展示があるからなぁー。まだ完成してないけど良かったら見に来てねぇ」


 見て見ぬふりをしていたけど、改めて現実を突きつけられてしまう。文化祭が終わったら愛さんが引退をしてしまうということを……。


 もう後ろをついていくのではなく、これからは一人で歩かなくちゃいけない時が目の前に迫ってきている。


 がんばらなくちゃ……! がんばれ! 私!


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