夏休みの半ば近くになると各地で夏祭りが行われていた。
それは氷川ヒカリ達の住む街においても例外ではなかった。
「水族館に行ったと思ったら、次は夏祭りか。お主とでなければもう少し楽しめるのじゃがなあ。夏休みと言ってもワシは教師としての仕事が山程あるんじゃぞ。一応、雅彦と春昭のおるバレー部の顧問で他校との練習試合とかもあるんじゃし」
「その割にはきっちり浴衣まで着て……。どうせ私に貸しを作れる上にお祭りで遊べて一石二鳥とか思っているんでしょ……」
「そういうお主は髪を後ろでまとめただけで、ハレの日だというのに色気がないのう」
白地に花柄模様の浴衣を着た政木と黄色いTシャツにロングスカートの篠崎が夏祭り会場の最寄り駅で待ち合わせをしていた。
「待たせたな」
駅の改札からシキが歩いて現れた。以前のような黒いスーツではなく、黒いTシャツにジーパンという一般的な装いだった。
軽装ということもあって、彼の首にある痛々しい傷跡が一層目立って見える。
「あら、まだ集合時間の三十分前よ。どこかの狸と違ってしっかりしているのね」
「誰が狸じゃ。って、それより集合時間の三十分前とはどういうことじゃ! ワシが聞いてた集合時間はもっと前じゃぞ! ワシだけ遅刻する想定の集合時間にするでない!」
不満そうに篠崎を問い詰める政木を無視してシキが話し始めた。
「政木先生、今日は来てもらって本当に助かる、ありがとう。前回と違って、今日はステラがここに現れるかどうかは正直俺達にもわからない。だから、先生の九尾の印の探知能力が必要だったんだ」
「とりあえず、アイツが近辺にいるかどうかを九尾の印で探索してもらえるかしら……?」
「ワシの九尾の印を使うのは別に構わぬが、今日は何が目的なんじゃ?」
「今日も見たいものがあるのよ……。そこにステラが来たら予定が狂うって話よ……」
「ステラ=ヴェローチェは有紀奈を抹殺せんとしている。しかし、有紀奈は普段から常に数人の一般人を盾にして生活をしているから、手を出したくても手が出せないのが現状だ。ところが、この夏祭りなら人混みに乗じることで、有紀奈に一手早く攻撃することができる。まさに絶好のチャンスと言えるだろう」
「ただ、人混みなんて私がお願いすればどうとでもなるから、ちゃんと頭を使えば私が人混みの中にいる時点で罠だってすぐにわかるわ……。だから、もし現れたら一般人を危険に晒してでも私を殺す気があることになる……。要はステラが独断で動いているのか、それとも飼い主がしっかり躾けをしているのかを測るのよ……」
「飼い主か、ふむ……。レイラもステラを能力ではなく、純粋に我が子のように大事にしておるがのう。なるほど、この行き詰まった世界では赤い糸を紡ぐのを諦めて、ユキナを殺すことを優先しておるのかどうかを判断するというわけか……」
政木は納得した様子で九尾の印を探索のために三本飛ばした。