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#35 ある美漢 第18話

 私、氷川ひかわヒカリは落ち込んでいた。


 私はやっぱり駄目だめな人間なんだと実感している。


 年上なのに安藤くんをリードすることも出来てないし、後ろを振り返るといつの間にかハルくんと愛さんがいなくてあわててしまっているし……。


 一緒に隣りを歩いてはいるものの、安藤くんとは凄く距離があるように感じてしまっている……。


 もう水族館も最後のエリアになってしまった。ここを通ってしまったら、私は申し訳無さで彼の顔を見れなくなっているかもしれない……。


「……氷川さん?」


 不安な気持ちが顔に出てしまっていたのか、安藤くんが声をかけてきた。


「……やっぱり、ちょっと退屈たいくつすぎでしたかね。すみません」


 顔こそ笑っているけれど、安藤くんがつくろっているのがわかる。悪いのは私なのに……。


「違うの、悪いのは私なの……。私のほうが年上なのに全然年上らしいことも出来てないし、少しでも不安になるとハルくんや愛さんに頼っちゃうし……」


 そう言っている自分が一番情けない。


「そんなこと言ったら、僕だって恋人らしいこと出来てないですし、お互い様ですよ。誰だって得意なことも不得意なこともあるんですから。氷川さんが年上だったとしても、リードするのが苦手だったら僕がリードします。年下だとか年上だとか、男らしいとか女らしいとか、そういう事は気にしなくて大丈夫です。僕が好きになったのは氷川ヒカリさんという個人であって、何かが得意な人じゃないんです。だから、そんなに考え込まないで、ありのままの氷川さんでいてください」


 安藤くんは精一杯せいいっぱい気をつかってくれている。でも、彼の手が少し震えているのも見えてしまった。きっとこの言葉に物凄く勇気が込められていたんだろう。


「それに、もし加藤先輩や平野先輩に頼りたくなったら、今度からはまず僕を頼ってください。その代わり、僕も何かあった時は真っ先に氷川さんを頼りにしますから」


 私は彼の微笑む顔に、声に、気持ちに、全てにこたえたい。そう思った。


 だから次は私が勇気を出す番だと。


「ありがとう、安藤くん」


 私は震えて、汗もいっぱいかいている手で、安藤くんの手を握りしめて前に歩き出した。二人で一緒に。

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