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#32 恨み感 第16話

「高校生一枚で……」


 篠崎しのざきはチケット売り場で政木まさきを差し置いて購入を進めている。


「お主の能力ちからすれば、金など払わんでも入れるというのに、まったく律儀りちぎな奴じゃのう」


「私はあなたと違ってズルはしないのよ。もちろん可能な限りだけど……。どうせあなたはお金を払う必要がある時は幼児ようじけたりしているんでしょ……」


 政木まさきは一瞬だけ図星ずぼしを突かれた顔をしたが、すぐに誤魔化ごまかすように目線をそらした。


「正直な話、別にわざわざ入場する必要は無いのだけれども、せっかくだから少しくらいは楽しもうかと思っただけよ……」


 話をしながら篠崎は、政木を置いて一人で入場口へ進んでいく。


「こら、勝手に一人で行くでない……! まったく……。一体お主は何を見ようとしておるのじゃ?」


「ヨーコ、私はつくづく思っていた事があったの……。私達みたいな並行世界を渡る者はこの世界とってであり、少なからずこの世界の未来を変える事が出来るわ……。でも、それって本当なのかしらって……」


 政木は篠崎を追いかけるように入場し、イルカの水槽へ向かう篠崎に追いついた。


「私が安藤くんに水族館をすすめたのは期末テストが終わってすぐのタイミングだったわ……。だから、彼はすぐに勇気を出して氷川ひかわヒカリを水族館へ誘い、こうしてに四人で楽しんでいる……。でも、もし私が勧めなかったら、彼が一人で氷川ひかわヒカリを水族館へ誘うまでにどれだけの日数をようするのか……? もしかしたらくらいまでかかってしまうかも……?」


 篠崎の問いに対して、政木は首をかしげて考えていた。


「うーむ……。今までワシの手で世界に干渉かんしょうしたゆえ、世界に大きな影響を与えてしまったことは何度もあったが……。確かにもし手を加えなければどうだったのか答え合わせをしたことはないのう。まぁ、正確には確認のしようがないと言った方が正しいか」


 篠崎は足早あしばやに暗い室内を進み、四人が間違いなく水族館へ来ていることをその眼で確認すると、安堵あんどなのか嬉しいのか、無言でフゥと息を吐いた。


「ほれ、四人ともしっかりと楽しんでおるが、これで満足なのか?」


 遅れて追いついてきた政木が篠崎の隣に立って話しかける。


「えぇ、満足よ……。多少想定外の部分もあったけど『彼らが夏休み半ばより前に水族館へ来ていた』そして『水族館付近でステラ=ヴェローチェが襲ってきた』という、この二つの事実だけで十分よ……。それじゃあ、もう帰りましょ……」


「なっ!? まだ入って五分も経っておらんではないか! 『少しくらい楽しむ』で本当に少しなやつがあるか!」


「続きを見たいなら個人的にまた来なさい……。私は人混みにまれたくないから、イルカショーが終わる前に帰るわ……」


で人を自由に操れるやつに、人混みもクソもあるか!」


 そのまま篠崎は来た道を引き返し、入場口の隣にある出口から水族館をあとにした。

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