「まったく、これで何回目よ……。ホント、どこまでもついてくるのね……」
篠崎はポニーテールの少女に向かって、溜め息交じりで声をかける。
「本当に現れるとはのう、ユキナの予感も大したものじゃな。しかし、ワシと目的が同じなのは良いが、周囲に迷惑をかける過激派なのは見逃せないからのう。それで、なんて名前じゃったか……」
政木がとぼけた顔で少女を見て笑いを堪えていると、少女は噛みつかんばかりの勢いで叫んだ。
「ステラだ! 暗殺の名門ヴェローチェ家の長女! ステラ=ヴェローチェだ!! ヨーコとも何度か会ってるじゃん!! わざとでしょ!!」
ステラは手足に巻き付いた矢印と、全身を掴んでいる男性達を剥がそうとするが、二つの能力でガッチリと捕まえられているため全く身動きが取れなかった。
「ヨーコ、とりあえずコイツの持ってるナイフを取り上げて頂戴……。もし他にも武器を持ってたらそれも頼むわ……。こんな奴でも能力なしの肉弾戦になったら全く太刀打ち出来ないからね……」
「ワシに命令するでない」
そう言いつつも、政木が手をステラに向けると、ナイフに巻き付いた矢印がそのまま上空へ高く飛び、近くのビルの屋上にナイフを捨てて戻ってきた。
「ぬわっ! ちょっと! 結構高いんだよ、それ!」
政木の使う九尾の印は薄い紙のような矢印を思いのままに飛ばし、使い方次第で探知、攻撃、防御、支援と、あらゆることがこなせる万能な能力である。ただし、九尾の狐である政木が同時に使うことができる矢印は合計九本まで。
事前にステラの襲撃を想定して二本を探知用に飛ばしてステラの位置を特定していた。
そして、両手両足の拘束に四本、ナイフに一本、そして未使用の矢印は残り二本。そのうち残りの一本を使ってステラの全身を弄って武器が無いかを調べた。
「うひゃひゃひゃ! ちょっと! 変なところ触らないでよ!!」
「うーん、他に武器らしきものは無さそうじゃな。戦闘に関する実力だけならわしらより遥かに上じゃが、ただの一般人ならともかく能力持ちのワシらを襲うのは蛮勇じゃな」
「優秀な暗殺技術があっても飼い主から一般人には手を出すなと言われているでしょうからね。今回はヨーコに手を――尻尾を借りたけど、私は常に一般人を盾に生活しているから手出しは出来ないでしょうし、こんな奴に能力を使いっぱなしなのも癪だからさっさと解放するわよ」
その言葉と同時にステラを拘束していた男性達は何事もなかったかのように散り散りに去っていった。
それにあわせて、ステラの両手両足を拘束していた矢印も政木の元へ帰還し、ステラの拘束は全て解除された。
「ほら、今日はまだ殺さないでおいてあげるわ……。もう飼い主のところに帰っていいわよ……。これ以上ついてくるなら、この周辺にいる一般人が全員舌を噛み切るわよ……」
追い払うように手を振り、そのまま篠崎は水族館へ歩みを進めた。
一方、政木は拘束を解かれて四つん這いになっているステラに近寄り、見下すように声をかけた。
「帰りの電車賃は持っておるかぁ? 小娘よ。まぁ、持って無くても貸さんがのう! だーはっはっ!」
政木も篠崎を追うように歩きだし、まるで最初から一人だったかのようにステラはアスファルトの上にぽつんと残された。
「うわあああああん! 馬鹿にしてえええ!!」
ステラは一人泣き喚いていた。