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#28 恨み感 第14話

「まったく、これで何回目よ……。ホント、どこまでもついてくるのね……」


 篠崎しのざきはポニーテールの少女に向かって、いきじりで声をかける。


「本当に現れるとはのう、ユキナの予感も大したものじゃな。しかし、ワシと目的が同じなのは良いが、周囲に迷惑をかける過激派かげきはなのは見逃せないからのう。それで、なんて名前じゃったか……」


 政木まさきがとぼけた顔で少女を見て笑いをこらえていると、少女はみつかんばかりの勢いで叫んだ。


「ステラだ! 暗殺あんさつ名門めいもんヴェローチェの長女! ステラ=ヴェローチェだ!! ヨーコとも何度か会ってるじゃん!! わざとでしょ!!」


 ステラは手足に巻き付いた矢印と、全身を掴んでいる男性達をがそうとするが、二つの能力でガッチリとつかまえられているため全く身動きが取れなかった。


「ヨーコ、とりあえずコイツの持ってるナイフを取り上げて頂戴ちょうだい……。もし他にも武器を持ってたらそれも頼むわ……。こんな奴でも能力なしの肉弾戦になったら全く太刀打たちうち出来ないからね……」


「ワシに命令するでない」


 そう言いつつも、政木が手をステラに向けると、ナイフに巻き付いた矢印がそのまま上空へ高く飛び、近くのビルの屋上にナイフを捨てて戻ってきた。


「ぬわっ! ちょっと! 結構高いんだよ、それ!」


 政木の使う九尾の印ナインズアローは薄い紙のような矢印を思いのままに飛ばし、使い方次第で探知たんち、攻撃、防御、支援と、あらゆることがこなせる万能な能力である。ただし、九尾きゅうびきつねである政木が同時に使うことができる矢印は合計九本まで。


 事前にステラの襲撃しゅうげきを想定して二本を探知用たんちように飛ばしてステラの位置を特定していた。

 そして、両手両足の拘束こうそくに四本、ナイフに一本、そして未使用の矢印は残り二本。そのうち残りの一本を使ってステラの全身をまさぐって武器が無いかを調べた。


「うひゃひゃひゃ! ちょっと! 変なところ触らないでよ!!」


「うーん、他に武器らしきものは無さそうじゃな。戦闘に関する実力だけならわしらよりはるかに上じゃが、ただの一般人ならともかく能力持ちのワシらを襲うのは蛮勇ばんゆうじゃな」


「優秀な暗殺技術があっても飼い主から一般人には手を出すなと言われているでしょうからね。今回はヨーコに手を――尻尾を借りたけど、私は常に一般人を盾に生活しているから手出しは出来ないでしょうし、こんな奴に能力を使いっぱなしなのもしゃくだからさっさと解放かいほうするわよ」


 その言葉と同時にステラを拘束こうそくしていた男性達は何事もなかったかのようにりにっていった。

 それにあわせて、ステラの両手両足を拘束していた矢印も政木の元へ帰還きかんし、ステラの拘束は全て解除された。


「ほら、今日はまだ殺さないでおいてあげるわ……。もう飼い主のところに帰っていいわよ……。これ以上ついてくるなら、この周辺にいる一般人が全員舌を噛み切るわよ……」


 追い払うように手を振り、そのまま篠崎は水族館へあゆみを進めた。

 一方、政木は拘束をかれて四つんいになっているステラに近寄り、見下すように声をかけた。


「帰りの電車賃でんしゃちんは持っておるかぁ? 小娘こむすめよ。まぁ、持って無くても貸さんがのう! だーはっはっ!」


 政木も篠崎を追うように歩きだし、まるで最初から一人だったかのようにステラはアスファルトの上にぽつんと残された。


「うわあああああん! 馬鹿にしてえええ!!」


 ステラは一人泣きわめいていた。

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