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#27 ある美漢 第14話

 私、氷川ひかわヒカリは萎縮いしゅくしていた。


 勇気が無くてハルくんと愛さんを呼んでしまったことを、今になって後悔してきている。


 想像できたはずなのに、私以外の人たち全員に迷惑をかけてしまった……。

 私がしょぼくれていると、安藤くんが明るい声で話しかけてきた。


「さぁ、行きましょ、氷川さん」


「う、うん……」


 私の方が一年先輩なんだから、本当なら私の方がしっかりしなきゃいけないのに、安藤くんのほうがよっぽど大人だと思う。私もがんばらなきゃ……!


「安藤くん、ごめんね……。私が意気地いくじなしなせいで初めてのデートを台無しにしちゃって……」


「別に大丈夫ですよ、気にしないでください。僕だって物凄く緊張していたんですけど、頼りにしてる加藤先輩やさっきの平野先輩のおかげで随分ずいぶんと気持ちが楽になりましたし」


 私たちが水族館の受付に行くと、愛さんが手際良てぎわよく入場券を購入してくれた。


「高校生四枚くださーい! 私が立て替えるからみんなはお金ちょーだーい!」


 愛さんはいつもふざけている事が多いけど、実際はみんなのことを考えて愛嬌あいきょう手際てぎわも良く動いてくれている。


 そんな人だから見た目や振る舞い以上に人望じんぼうがあるし、美術部の部長として部員のみんなからも信頼されている。


 だから、愛さんが引退したあとの事を考えると、物凄く不安になってしまう……。


 全員が入場券を持つと、愛さんは私と安藤くんを先頭で歩くよううながしてきた。


「今日の主役は二人なんだからね。私と春昭はるあきくんは後ろをついていくから、ヨ・ロ・シ・ク」


「えーっと。それじゃあ、行きましょうか、氷川さん」


 安藤くんは私に向かって手を伸ばしたけど、今の私にはまだその手を繋ぐ勇気がなかった……。

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