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#24 恨み感 第12話

 腰まで届く長い金髪の女性――レイラは、とあるカフェのテラスで紅茶を味わっていた。


 彼女も篠崎しのざき政木まさきとおなじく、肉体というかせを解き放ち、並行世界を渡る者である。

 世界を渡る者となった彼女らは実体のある幽霊のようなものであり、もはや食事や睡眠といったよくは存在せず、肉体が疲れることもない。


 彼女が紅茶を飲むのも、生きるためではなく、香りと味を楽しむためだけの行為に過ぎない。


となりいてますか?」


 カフェのテラスに座り本を片手に紅茶を飲むレイラに対して、大人しい声色こわいろの女性が声をかける。


「えぇ、いてま――って、なんだ、ヨーコじゃない。周りの席が全部いているのに気が付かずに返事した私も私だけど」


 大人の姿に化けた状態であったが、旧来きゅうらいの知人の姿はすぐに見破ることが出来たようだった。


「最近はユキナの近くにおるからのう。たまにはお主の顔をおがんでおかねばなと思ってのう」


 政木はガハハと笑いながら、レイラの向かいの席に勢いよく腰掛け、ウェイターに水を持ってくるよう催促さいそくをした。


「あなたそんな二重にじゅうスパイみたいなことして楽しいの……?」


「どうとでも言うがよい。ユキナはお主がこの並行世界におるとにらんでおるようじゃが、本当におるのかまでは知らぬようじゃぞ。ただ、お主のところの青髪の小娘の存在は確実に気づいておるようじゃ」


 レイラは紅茶の入ったカップを持ち、表面に写る自らの姿を見つめる。


「お主はどう動くつもりじゃ? 今度ワシは小娘を退治たいじするデートにさそわれておるぞ」


 政木がテーブルに身を乗り出してニヤリと笑いかける。


「うるさいわね、どっちの味方なのよ」


「ワシは中立じゃ。ただ、運命の赤い糸を手繰たぐって並行世界を救うという使命に関してはお主と同じではあるがのう。だからこそ、あの小娘の動きが気になるからここに来たまでよ」


「………………」


 レイラは飲みかけのカップをソーサーに戻し、あごに手をかけ思案しあんする。


「ほれ、聞いておるのか?」


 政木がレイラのソーサーの上にあるスプーンを手に取り、レイラに向かって投げつけた。


 その瞬間、レイラの周りに青白い光が現れ、甲高かんだかい金属音とともにスプーンは光の壁にぶつかって地面に落ちた。


「人のスプーン何だから触らないでもらえる?」


「それならば『全てを守る力インビンシブル』ではじかずに、自分でキャッチすればよかろう」


「勝手に発動しちゃうんだから仕方ないじゃない」


 レイラの能力ちからはあらゆる攻撃を自動的に防御する最強の盾。その名を『全てを守る力インビンシブル』という。


 敵意を持った攻撃や痛みが伴うような衝撃に対して自動的に能力が発動する。そのため、不意打ちなど効かず、不慮ふりょの事故に合うこともない。


 盾の強度は名前の通り無敵インビンシブルであり、この万夫不当ばんぷふとうの盾をつらぬほこはあらゆる並行世界を探しても存在しない。


 これは、という強い想いによって生まれた、世界で最もやさしい能力である。


「たまにはその能力をワシに貸してくれんかのう、確か他人へ譲渡じょうともできるんじゃろ?」


「なんで貸さなきゃいけないのよ」


「この世界には青髪の小娘だけかもしれぬが、お主には他にも仲間が何人なんにんもおるんじゃろ? ワシは一人旅じゃ、危なくて仕方ないわい」


「ヨーコが一人なのは、コミュ障で相手と距離をとるのが下手だからでしょ」


「はー、うるさい、うるさい。小姑こじゅうとかお主は」


 レイラがハァと溜め息をつくと、ヨーコの前にクリームがたっぷり盛られたパンケーキが配膳はいぜんされた。

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