チラリと横目でアシャンティを見れば、彼と目が合った。アシャンティは今度は聖愛の瞳に注目していたらしい。
「お前の目ってさ、生まれつきそういう目なの? それとも魔法の影響?」
「生まれつき」
たぶん、と心の中で付け足して、聖愛は黒曜石のようなアシャンティの瞳を見つめ返す。
「綺麗な目じゃん」
「ありがとう」
「俺も目の色変えられるよ。見てて?」
アシャンティは言うと、一度瞬きをする。すると次の瞬間には、アシャンティの瞳は黒色から青色へと変わっていた。
「っ!? すごい……!」
「気に入った?」
「これは魔法なの?」
「そー、俺の魔法」
透き通るような青い瞳に魅入られて、聖愛は瞬きもせず彼の瞳を見つめる。そんな聖愛のリアクションに、アシャンティがケラケラと笑った。
「マリア見すぎ。そんなに気に入った?」
「うん、すっごく。綺麗だよ、アシャンティ」
「……そっか。ありがとう」
アシャンティは急に勢いを無くし、少し俯いた。そして半歩先を歩き始めるので、聖愛は首を傾げる。気を悪くさせただろうか、人の心など聖愛には分からない。分かっていたらあの日、聖愛を手放した父の気持ちだってきっとわかるだろうに。
秋風が、少し汗ばんだ聖愛の背中を通って行く。揺れるワンピースの裾は気にせず、帽子が飛んでいかないように抑えて、再び街を見下ろした。もう随分歩いてきていた。こんなに遠くまで来る予定は無かったのだが。
「見えてきた。あれだよ」
アシャンティのその言葉で、聖愛は顔を上げる。確かに丘の一番上に、何か建物がある。
「あれがギルド?」
「そう、冒険者ギルド【ユースティティア】。
マリア、あと少しだからここ跳んでこ」
「この距離の崖を? アタシには無理だよ」
「俺が運んでやるから、さ!」
言うが早く、アシャンティは聖愛の身体を抱き上げる。俵担ぎにされた聖愛はその不安定な姿勢に悲鳴をあげ、間髪入れずアシャンティが走り出したから更に悲鳴をあげた。
時間にして約40秒程。1分は経っていないと思う。最早風力に逆らえず飛んでいく帽子を掴むことも出来ず、聖愛はただアシャンティの腕の上で小さくなっていた。ジェットコースターとは違った命の恐怖を感じる。安全バーが無い分こっちの方がスリリングだ。言っている場合では無いが。
「ほら、着いた」
アシャンティが「俺の言った通りだろ?」と話しているのに、答える余裕は無かった。扉越しに喧騒が聞こえるから、きっと彼の言うとおりギルド前に到着したのだろう。聖愛には何も見えないが。