「お待たせ」
「なんだ、本当に一人で支度が出来るんだな」
「あら、言ったでしょ? “梦視侘聖愛”はできるのよ」
ふふんと笑えば、モンタも優しく笑った。彼がエスコートしてくれるから、その手を借りて馬車に乗り込む。アーチボルドとアンドレイはそれぞれの馬で移動するようだった。
「ねぇモンタ、このカードってなんだと思う?」
走り出した馬車の中で、聖愛はモンタに件のカードを見せてみる。モンタはそれを手に取ると、驚いたようにして「これをどこで?」と尋ねる。
「倉庫にあったの。売れる本がないかと思って本棚を見ていたら足の上に落ちてきて……手に取ったら自然と頭の中に呪文が浮かんできて、さっきみたいに容姿が変わったの! きっと魔法だと思うんだけれど、どうしてアタシが使えたのかしら」
「それは……そうだな、お前が優れた魔法使いだからじゃないか?」
「そうなの? そんなこと言われたの初めて……」
思ってもいなかった言葉に、聖愛は驚く。さっきの偶然魔法を発動させてからの慌てぶりを思い出すと、とても自分が優秀な魔法使いとは思えないのだが、モンタがそう言うならそういう見え方もあるのだろう。
「貴族社会の女児は魔力なんて求められていない。求められる能力は、ちゃんと子供が産めるのかだ。だから魔力を持っていてもそれを発揮する機会がなかったのだろう。
聖愛は今まで、魔法を使ったことがあるんじゃないか?」
「えっ……どうだろう……記憶には無いけれど……」
「一度魔法と向き合ってみたらどうだ? 時間は山のようにあるんだ。
それとも恐ろしいのなら、俺が回収してしまおうか?」
「……いいえ、それは、いいわ。アタシが持っていたい。アタシが、持っていなくちゃいけないような気がするの……」
聖愛はモンタの手から返された本を大切に受け取ると、ギュッと抱きしめる。何故かこれを手放してはいけない気がした。
モンタは聖愛の意思を尊重してくれた。手元に戻ってきた本の中からカードを取りだして、一枚一枚を眺めていく。
ガタガタと、馬車が進んでいく。その中で聖愛は、じっとカードを見つめているのであった。