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Ⅱ話:無理ゲー!!


「いや〜……困ったね」


 誰に言うでもない独り言を呟いて、一枚しかないバスタオルで身体を拭く。髪を拭くのは諦めた。絞れるだけ絞ったからもういいだろう。頑張っていたタオルは水でぐっしょぐしょだ。これ以上水分は吸い取れない。


 少し“前”の話をしよう。


 前世、マリアはどこにでも居る日本人だった。ちょっと幼少期にごたついたが、掃いて捨てるほどいる女優志望ながら夢破れた一般人。


 茹だるように暑い夏のある日、親友がポテト無料券を入手してきたから、彼女とマックに立ち寄って、あの小気味良いテリロンテリロンをBGMにポテトを無料で得て、そのカリッ、ジュワッ、ホクホクッとした食感と味に幸せになっていた帰り道。


 カンカンと鉄を打ち付ける音がうるさい工事現場の横を通り過ぎながら「今日家寄ってく?」「あ〜どうしようかな〜」なんていつも通りの会話をしていたその時、工事現場から落下してきた鉄柱。その時はそれがスローモーションみたいに見えた。このままじゃ親友が下敷きになると、一瞬で直感した。気付いた時には彼女を押し出して自分が下敷きになっていた。人間本気出すと出るもんだね。


 気付いたら、胸から下の感覚が無くなってた。多分、鉄柱の下敷きになったから、身体が潰れて千切れたんだと思う。

 親友が泣いているのを強烈なまでに憶えている。「どうして!? なんで!? 」って。


「そんなの下心あるからに決まってるじゃん。アタシ、アンタが好きだったんだよ、アンタは知らなかっただろうけどさ」


 タオルを洗面所に持っていき、ギュッと絞りながら呟く。


 嗚呼、人生うまくいかない。一世一代の告白も出来ないまま、視界はブラックアウトした。そして気が付いたら、今さっき風呂場で溺れかけていた。何故そうなる?


 前世の記憶も今世の記憶も曖昧だ。だが一つ分かることがある。現在14歳、この身体で、バッドステータスな過去を引き摺って、生きていかねばならないということを。


「無理ゲー!」


 タオルをパンパンと広げながら嘆く。こんなの無理に決まっている。一体どうしろと言うのだ。社交界という場にしか居場所が無く世間から隔離されていた“マリア”は世間を知らない。故に今前世の記憶を取り戻したところで分からない。そう、明日のパンを得る方法すら分からないのだ。


「とりあえず、仕事を……探さないとだな……」


 言いながら、目眩がした。どうしろというのだ一体。嗚呼畜生、目眩がする。


「——今日は、また一段とうるせぇな」


 ぴゃっと飛び上がったマリアは、声のした方角を見る。そこにはいつの間にか黒衣を纏った騎士らしき男が立っており、マリアは当惑する。そういえばエラの“慈悲”でマリアには護衛を側近として付けて追放するということになっていたのだっけと思い出し、必死に名前を思い出そうとした。たしかエラが冒険者ギルドに依頼を出して、この男が来たのだ。名前は……——

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