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追放され済み転生令嬢はチート魔法を習得済みなので今日も楽しく生きている
梦視侘聖愛
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年09月15日
公開日
27,072文字
連載中
記憶が戻った時には、もう追放済みだった!?

“悪役令嬢”と呼ばれ婚約破棄をされたマリアは家紋を追放され森の中の小屋で生きていくことになる。

とりあえず金が無くちゃ生きていけない! 幸いアタシには魔神を使役する魔法がある!

冒険者ギルドの酒場で給仕をしながらたまに冒険者と一緒に任務に着いて行き、安定した収入を得よう!

頑張れマリア! 元婚約者から送られてくる使者とか元婚約者の現婚約者から送られてくる暗殺者とか日々忙しいけど頑張れ生きろ!

■話:楽園じゃない

 夏は嫌いだ。あの夜のことを思い出す。茹だるように暑かった昼間の熱を引きずる、真夏の真夜中。父の友人だというその人は、アタシをパーティーに誘ってくれた。わざわざスタイリストを連れてきて、可愛いドレスを着せて髪を結わせ、アタシを抱っこして家を出て行く、優しい顔をした男。彼のコロンの香りがまだ鼻の奥にこびり付いて離れない。


 『おみあげにおいしいものもらって来るね!』と笑ったアタシに笑みを返した父の笑顔は、今でこそわかるが草臥くたびれていてどこか後ろめたいものがある顔だった。


 家が見えなくなるまでずっと手を振っていたアタシの姿を見ずに父が家の中に帰った時点で気付くべきだった。アタシは幼く無知で、ただひたすらに愚かだった。


 ——さぁおいでおいで仔羊さん、手の鳴る方へおいでなさい。


 まんまと騙されたアタシは、すっかり狼の腹の中。入口の無い鳥籠の中。終点の無い夜汽車の中。白濁に穢されて、高尚な純潔を散らし、涙の乾かない日々を送っていた。


 ——楽園じゃない。ここは楽園ではない。


 ならばアタシはどこに帰ればいい? 標も無いこの暗夜行路をどう帰れと言うの?


 ——楽園じゃない。ここは楽園ではない。


 それでも帰りたいの、手を引いてパパ。昔ようにアタシの手を引き、子守唄を歌って。


 蛹から蝶になり、アタシは生まれ変わったの。パパ、ねぇパパ。


「——……アナタはアタシに気付いてくれさえしなかったけれどね」


 涙の乾かない日々は、まだ続く。いずれ楽園に至るまで、涙の乾くことはアタシには無い。


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