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お魚

「何これ、結界が張られているわ」


 ラミッタは言って、洞窟前の看板に書かれている注意書きに目を通す。


「『これより先、水神様の祠により、金属の持ち込みを禁ずる』ですって」


「どういう事だ?」


 状況が飲み込めないマルクエンだったが、そこにシヘンが説明を入れる。


「もしかしたら、条件付きダンジョンなのかもしれません」


「条件付き?」


 ラミッタが聞き返すと、シヘンは頷いて答えた。


「はい。天然のものと、魔人が作るものがあるのですが。ダンジョン自体が結界で覆われ、ある一定の制限が課されます」


 ふーんと言ってラミッタは銅貨を取り出し、洞窟内に放り投げる。


 すると、銅貨はみるみる内に腐食し始め、ボロボロになった。


「やっかいね」


「結界の解除は出来ないのか?」


 マルクエンが聞くと、ラミッタは首を横に振る。


「こんな巨大な結界相手じゃ無理ね」


 そう言うと、ラミッタはカチャカチャと防具を外し始めた。


「ほら、ボサッと見ていないで、さっさと金属を外す!!」


「!! あ、あぁ」


 マルクエンもそれに習って鎧を脱ぎ始める。シヘンとケイも同じだ。


 ベルトの代わりに紐を通し、縛り上げる。全員の準備が整った。


「マルクエンさん。足、痛くありませんか?」


 靴まで金属を使っていたマルクエンは素足だ。


「えぇ、皮膚硬化の魔法を使っているので問題はありません」


 身軽になったマルクエンは微笑んで返す。


「せめて木刀の一本でもあれば良かったんだけど、仕方ないわね。行くわよ」


「おう!!」


 洞窟内に入ると、ひんやりとした空気が身を包んだ。


 ラミッタが照明弾を打ち上げてくれた為に、視界には困らない。


「あら、神様のステキな歓迎かしら?」


 洞窟には魔物が巣食っていた。ラミッタが皮肉交じりに言うと、狼型の魔物がマルクエン達を取り囲む。


 ラミッタは雷の槍を作り出して投げる。一匹を貫き、刺さった場所から地面に電気が流れた。


 シヘンも雷を打ち出して魔物を牽制する。そんな中、すり抜けた一匹が飛びかかってきた。


「オラァ!!」


 マルクエンはこぶしで殴りつけ、それをほふる。


「くー!! 私何も出来ないッス!! じれったいっス!!」


 武器を持たず、魔法もそこまで使えないケイは後ろで大人しくしていた。


「大丈夫、私に任せてケイ!!」


 シヘンはケイを守りながら、雷と火の魔法を打ち出して魔物が近寄らないようにしている。


「どんどん行くわよ宿敵!!」


「あぁ!!」


 ラミッタは魔物を蹴散らしながら奥へと進む。マルクエンもそれに続いた。


「あっ、待ってくださいよー!!」


 ケイ達も続いて洞窟の奥に走る。


 どうやら洞窟の奥までたどり着いたマルクエン達。


 そこにはいずみと小さな祠があった。


「水の神様!! 居るのかしら? 居るなら出てきなさい!!」


「ちょっ、ラミッタさん!? 神様相手に失礼じゃ……。本当に居たらどうすんスか!?」


 ラミッタの呼びかけに応じるように、泉の底から何かが浮上してきた。


 そのまま水しぶきを上げて飛び出す。その姿は……。


「え、何あれ……」


 ラミッタの見る先には体長2メートルほどの大きな魚、そして腹からは人間の足が2本生えていた。


「き、きもっ!!」


「アレが神様……。なんでしょうか?」


 シヘンはそんな事を言う。


「バカ!! あんな神様いるか!! ありゃどう見ても魔物ッスね」


 不意に魚は口からとげを飛ばし、とっさにラミッタは防御壁を張ったが、止めきれなかった数発がシヘンを襲う。


「危ない!!」


 自らを盾にしてマルクエンがそれを防ぐ。


「マルクエンさん!!」


 傷は浅かったが、じんじんと痛む。棘を引き抜いてマルクエンは魚と対峙した。


「とにかく、こいつをやっちゃえば良いわけね」


 ラミッタは雷を浴びせたが、驚いたことに魚はピンピンとしている。


「コイツ、多分だけど粘液で雷を弾いている!!」


 それならばと炎で焼き焦がそうとするが、泉に逃げられてしまった。


 そんな時、マルクエンは急にめまいがしてふらつく。


「っく、何だ……?」


「どうしたの宿敵!?」


 思わずマルクエンは片膝を着く。


「きゅ、急にめまいが、気分も悪い……」


「大丈夫!? 宿敵!!」


 魚が再び地上に現れた。ラミッタは足元を強く踏んで石を猛スピードで飛ばす。


 粘液がそれを受け流すが、生えている足を下から岩が絡め取った。


「いい加減にしなさい!!」


 魚の口を目掛けて氷柱を突き刺すラミッタ。それは体を貫き、絶命した。


 ラミッタはマルクエンの元に駆け寄る。


「宿敵!! その程度の傷で死ぬようなタマじゃ無いでしょ!! しっかりしなさい!!」


 確かに、マルクエンのケガはそこまで酷くはなかった。


 だが、彼はとても苦しそうだ。


「もしかしてッスけど、この魚の毒……とか?」


「シヘン、解毒できる!?」


「今やってみます!!」


 シヘンは魔法で解毒を試みた。


 しかし、一向にマルクエンの調子は良くならない。


 そんな時、ケイがハッとして言った。


「もしこの魚が、自分の毒を体内で中和するタイプの魔物だったら、どこか内蔵に解毒成分があるかもしれませんッス!! 何かそういう魔物がいるって聞いたことあるッス!!」


「なるほどね」


 ラミッタは近くの石を魔法で鋭くさせ、魚の腹を切り裂いた。

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