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水の神様

「それで、街を出たは良いが、次は何処へ行くんだ?」


 マルクエンの言葉にラミッタは、はぁっとため息をつく。


「本来の目的を忘れたのかしら? 宿敵。さっきの『ルカラカ』の街はあくまで中継点。この先の大きな街『ライオ』で魔王の情報を集めるのよ」


「あぁ、確かにそうだったな」


 マルクエンは頭を掻きながら面目なさそうにする。


「まぁ、ルカラカで凄く足止めをくらったッスからねー」


 そんな事を言うケイ。しばらく歩くと街道沿いの小さな集落が見えてきた。


「あの集落で休憩でもしましょうか。多分、旅人向けの飲食店ぐらいあるでしょ」


「そうだな」


 ラミッタの提案にマルクエンは頷いて言う。


 集落に近付くと、確かに茶屋と道具店はあったが、どうも戸は閉まり、寂れている。


「すみませーん、開いていませんか?」


 シヘンが声を出すも返事はない。一軒だけであれば、店じまいなのだろうが、集落は人が誰も歩いていなかった。


「だ、誰か来たの!?」


 突然、声を掛けられてマルクエン達は振り返る。


 そこには一人の小さな町娘が居た。だいぶ顔色が悪く見える。


「助けて下さい!!」


 こちらに走ってきてラミッタにすがりついてきた。事情がわからないマルクエン達だったが、ただ事ではないというのは伝わる。


「落ち着いて、何があったのかしら?」


 ラミッタはしゃがんで町娘と目線を合わせた。緊張の糸が切れてしまったのか、わんわんと泣き出してしまう。


「おかーさんが!! おとーさんが!!」


「お嬢ちゃん、ゆっくり何があったか言えるかい?」


 マルクエンもなだめようとするが、駄目だった。シヘンとケイも顔を見合わせてオロオロしてしまう。


「宿敵、ドアぶっ壊しちゃっていいから様子を見てきなさい!!」


「あぁ、わかった!!」


「私も行きます!!」


「ちょっ、私も行くッスよー!!」


 近くの道具屋のドアを何回か強めにノックする。返事が無いのでマルクエンはドアを蹴破った。


「誰か居ませんか!?」


 声を出しながらマルクエンが奥の部屋まで行くと、ベッドでうめき苦しんでいる男が一人。


「大丈夫ですか!?」


「うぅ、あぁ……」


 シヘンは男の手を握り、解毒の魔法を使う。しばらくすると、男は少し楽になったらしい。


「あ、あぁ、あんたらは……」


「私達は冒険者です。外で女の子が助けを求めていまして、勝手ながら店に上がらせてもらいました」


 マルクエンの言葉を聞いて、男は荒い息をしながら返事をする。


「怒りだ……、神の怒りだ……」


「怒り? 神?」


 何のことだか分からないマルクエン一行。


「神の怒りに……、触れてしまったんだ」


「と、ともかく、私達に出来ることはありませんか!?」


 マルクエンが尋ねるとゆっくり言葉が返ってくる。


「川沿いに……、上流へ行くと……、神の祠がある……、そこで……」


 そこまで言って男は気を失ってしまった。


「シヘンさん!!」


「解毒と呪いの解除をしていますが……。私の実力では!!」


 シヘンは精一杯に頑張っているが、力及ばず。毒なのか呪いなのかもわからない。


「宿敵!! 何かわかったかしら!?」


 外で叫ぶラミッタの元に駆け寄り、男が口にしていたことを話す。


「神の怒りだとか、川の上流に神の祠があるだとか言っていたが……」


「何がどうなっているのか分からないけど、もっと情報が欲しいわ、他の家にも行ってみるわよ」


 次は茶屋に入り込む、床に倒れ込む女性が居た。


「しっかりして下さい!!」


 シヘンが手を握り、魔法を使う。


「あ、あぅ……」


 ギリギリの所で命はあるが、受け答えが出来る状態じゃない。


 他の家も同じ様な有様だった。外に出たマルクエン達を待っていたのは泣いていた小さな町娘だ。


「みんな、水の神様が怒ったんだって、だから、だから!!」


「水の……神様?」


「マルクエンさん。この世界では、神は人々の身近に存在しています」


 一神教のマルクエンには理解しがたかったが、シヘンの言葉を聞いて、無理にでも納得した。


「それで、どうすればいいのかしら? 水の神様はどこ?」


 町娘は遠くを指さして言う。


「川のずっと上のほこらにいるんだって」


「わかったわ」


 そう言って走り出すラミッタをマルクエン達は追いかける。


「ま、待てラミッタ!! わかったって言ったって、どうするんだ!?」


「神様に助けて貰うようにでも言うわ。神頼みね」


 一足先に川に出るラミッタ。続いてマルクエンも着く。


「見て、宿敵。魚が浮いているわ」


 岩の近く、流れの緩やかな場所で魚が浮かんで死んでいる。


「まさか……。毒、か?」


「そう考えるのが妥当でしょうね」


 遅れてたどり着いたシヘンとケイも二人が眺める先を見つめた。


「上流で何かあったみたいね。それで、川の水を飲んだ住民に異変が起きた。って所かしら?」


「なるほどッス」


 息を切らしながら言うケイ。シヘンも杖を強く握って話をする。


「それじゃ、その上流に行けば何かわかるって事ですね!」


「えぇ、それしか無いわね」


 今度は足並みを揃えて駆け出す四人。しばらくすると、何やら大きな洞窟が見えてきた。


「アレかしらね」


 入り口まで近付くと、ラミッタは異変を感じ取る。

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