ラミッタは野を駆け、目についた魔物を全て斬り倒していく。
「こんなんじゃ準備運動にもならないわね」
そんな事を言いながら、巨大ムカデの毒液を
殲滅し終えると、ふと強い魔物の気配を察知し、その方角を見る。
「あれは……」
地図によると、元々はダンジョンであったが、魔物も魔石も狩り尽くされ、今は何もない場所。
いわゆる『枯れたダンジョン』という場所だ。
「何か魔物が巣でも作っているのかしら?」
ラミッタは、その枯れたダンジョンまで走り、中の様子を伺うことにした。
照明弾を打ち上げ、辺りを照らし、片手間に魔法で魔物を消し飛ばす。
ずんずんと奥まで進むラミッタ。気配が近くなる。
「えっ!?」
思わず見つけた物にラミッタは声を上げてしまうが、慌てて身を隠した。
そこにはなんと、伝説でしか聞いたことのない翼竜が居たのだ。
「こっちの世界にはこんなのも居るの!?」
翼竜はじっと動かない。ラミッタは思考を巡らせた。
「あの街の大きな箱、もしかしてこの翼竜の為なのかしら……」
最悪の仮説を立てる。もしそうだとしたら、あの街は終わりだ。
とはいえ、自分一人で勝てるかは分からない。ここは一旦引くことにした。
音を消して枯れたダンジョンを抜け、ラミッタは街へと走る。
一刻も早くこの事を知らせなければと。
マルクエン達は防護柵を作りを休憩し、一息付いていた。
「ラミッタさん遅いっスねー」
「えぇ、確かに」
ケイのぼやきを聞いて少し心配するマルクエン。
そんな時、彼方から猛スピードでやって来る人影が見えて安堵する。
しかし、そんな気持ちも束の間に、目の前にやって来たラミッタの言葉で皆は驚くことになる。
「翼竜よ、翼竜が居たわ!!」
「よ、翼竜だって!?」
マルクエンだけでなく、周りに居た冒険者達にもどよめきが走る。
「そう、今のうちに倒しておかないと大変なことに……」
そこまで言いかけて固まるラミッタ、どうしたのか彼女の見つめる先を見ると、例の箱が緑色に光り始めていた。
小さな箱からはチラホラと魔物が現れ、大きな箱からは。
ラミッタの予想通り、翼竜が飛び出し、天高く羽ばたいていく。
「なっ!!」
初めて竜を見るマルクエンはそんな声を出す。元からこの世界に居るシヘンとケイ、他の冒険者達でさえ、非現実的な光景をみて恐怖した。
「あれが……」
シヘンは肝を冷やしながら、空を見上げてそう言葉を漏らす。
「ボサッとしない!! 地上にも魔物がいるのよ!!」
ラミッタの言葉でマルクエン達は我に返る。近づいてくる魔物達をラミッタとマルクエンは剣で斬り捨てた。
「あの竜はどうすれば良い!? ラミッタ!!」
「そんなの私も知らないわよ!!」
二人は魔物達を殲滅しながら空をちらりと見る。
竜は上空を旋回しているだけだが、いつこちらに来るとも分からない。
「街に向かったら危険ね、注意を引き付けるわ。宿敵、覚悟は良いかしら?」
「おう!!」
マルクエンが返事をすると同時に、ラミッタは宙に向かって極太の氷柱を打ち出した。
竜が怯み、氷柱が片翼を貫いた。飛行能力を失い、地面へと落ちる。
両足で立ち上がり、咆哮をする翼竜を見据えてマルクエンは走った。
相手が吐き出す火の玉を剣で薙ぎ払い、速さを緩めることの無いまま突っ込んだ。
筋力強化魔法を最大にして剣を頭に叩きつける。
翼竜は頭が縦に真っ二つになり、絶命した。
それを見た冒険者たちは歓声を上げるでもなく、ただただ圧倒的な戦いにぽかんとしていた。
「案外、翼竜って大したことないのね。私一人でも充分だったかしら」
マルクエンの近くに走ってきたラミッタが言う。
「あぁ、そうかもしれんな」
そう言葉を交わすと、ラミッタは魔物を斬りに、マルクエンは箱を壊して回る。
マルクエンが箱を壊し終わるのと、周りの魔物を殲滅したのは、ほぼ同時だった。
「やっと、終わったんですか……?」
戦いに参加していたシヘンは疲れ果て、杖を支えにその場に座り込んでしまう。
「はぁはぁ、きっつかったー……」
ケイもそんな事を言いしゃがみこんだ。
翼竜との戦いから二日後、ようやく街に軍の配備が出来たらしい。
「此度のご活躍。流石です」
冒険者ギルドでマルクエン達はギルドマスターと向かい合っていた。
マルクエン達は『竜殺しのパーティ』として、称賛され、同時に恐れられる。
「いえ、軍も配備出来ましたし。私達は旅を続けたいと思うのですが」
マルクエンの言葉に、ギルドマスターは目を伏せる。
「魔王討伐……。でしたか」
「えぇ」
本来であれば応援をしたいところだが、魔王討伐とは死を意味する様なものだ。
とても「頑張ってください」と送り出すことなど出来ない。
「今回の件は、それこそAランクの冒険者の活躍に匹敵しますが。私に出来るのはマルクエンさんとラミッタさんのランクをCに上げることぐらいです」
冒険者が飛び級でランクを上げるには、ギルドの本部で特別な許可がいる。
「ありがとうございます。充分です」
そう言ってマルクエン達は部屋を後にした。
街を出る際、大勢の人がマルクエン達を惜しみながら送り出してくれる。
「何か恥ずかしいですね」
「私も照れくさいッス……」
むず痒いものを覚えるシヘンとケイをよそ目に、ラミッタは澄ました顔をし、マルクエンは街に手を降って旅路を歩んでいった。