目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

翼竜

 ラミッタは野を駆け、目についた魔物を全て斬り倒していく。


「こんなんじゃ準備運動にもならないわね」


 そんな事を言いながら、巨大ムカデの毒液をかわして呟いた。


 殲滅し終えると、ふと強い魔物の気配を察知し、その方角を見る。


「あれは……」


 地図によると、元々はダンジョンであったが、魔物も魔石も狩り尽くされ、今は何もない場所。


 いわゆる『枯れたダンジョン』という場所だ。


「何か魔物が巣でも作っているのかしら?」


 ラミッタは、その枯れたダンジョンまで走り、中の様子を伺うことにした。


 照明弾を打ち上げ、辺りを照らし、片手間に魔法で魔物を消し飛ばす。


 ずんずんと奥まで進むラミッタ。気配が近くなる。


「えっ!?」


 思わず見つけた物にラミッタは声を上げてしまうが、慌てて身を隠した。


 そこにはなんと、伝説でしか聞いたことのない翼竜が居たのだ。


「こっちの世界にはこんなのも居るの!?」


 翼竜はじっと動かない。ラミッタは思考を巡らせた。


「あの街の大きな箱、もしかしてこの翼竜の為なのかしら……」


 最悪の仮説を立てる。もしそうだとしたら、あの街は終わりだ。


 とはいえ、自分一人で勝てるかは分からない。ここは一旦引くことにした。


 音を消して枯れたダンジョンを抜け、ラミッタは街へと走る。


 一刻も早くこの事を知らせなければと。






 マルクエン達は防護柵を作りを休憩し、一息付いていた。


「ラミッタさん遅いっスねー」


「えぇ、確かに」


 ケイのぼやきを聞いて少し心配するマルクエン。


 そんな時、彼方から猛スピードでやって来る人影が見えて安堵する。


 しかし、そんな気持ちも束の間に、目の前にやって来たラミッタの言葉で皆は驚くことになる。


「翼竜よ、翼竜が居たわ!!」


「よ、翼竜だって!?」


 マルクエンだけでなく、周りに居た冒険者達にもどよめきが走る。


「そう、今のうちに倒しておかないと大変なことに……」


 そこまで言いかけて固まるラミッタ、どうしたのか彼女の見つめる先を見ると、例の箱が緑色に光り始めていた。


 小さな箱からはチラホラと魔物が現れ、大きな箱からは。


 ラミッタの予想通り、翼竜が飛び出し、天高く羽ばたいていく。


「なっ!!」


 初めて竜を見るマルクエンはそんな声を出す。元からこの世界に居るシヘンとケイ、他の冒険者達でさえ、非現実的な光景をみて恐怖した。


「あれが……」


 シヘンは肝を冷やしながら、空を見上げてそう言葉を漏らす。


「ボサッとしない!! 地上にも魔物がいるのよ!!」


 ラミッタの言葉でマルクエン達は我に返る。近づいてくる魔物達をラミッタとマルクエンは剣で斬り捨てた。


「あの竜はどうすれば良い!? ラミッタ!!」


「そんなの私も知らないわよ!!」


 二人は魔物達を殲滅しながら空をちらりと見る。


 竜は上空を旋回しているだけだが、いつこちらに来るとも分からない。


「街に向かったら危険ね、注意を引き付けるわ。宿敵、覚悟は良いかしら?」


「おう!!」


 マルクエンが返事をすると同時に、ラミッタは宙に向かって極太の氷柱を打ち出した。


 竜が怯み、氷柱が片翼を貫いた。飛行能力を失い、地面へと落ちる。


 両足で立ち上がり、咆哮をする翼竜を見据えてマルクエンは走った。


 相手が吐き出す火の玉を剣で薙ぎ払い、速さを緩めることの無いまま突っ込んだ。


 筋力強化魔法を最大にして剣を頭に叩きつける。


 翼竜は頭が縦に真っ二つになり、絶命した。


 それを見た冒険者たちは歓声を上げるでもなく、ただただ圧倒的な戦いにぽかんとしていた。


「案外、翼竜って大したことないのね。私一人でも充分だったかしら」


 マルクエンの近くに走ってきたラミッタが言う。


「あぁ、そうかもしれんな」


 そう言葉を交わすと、ラミッタは魔物を斬りに、マルクエンは箱を壊して回る。


 マルクエンが箱を壊し終わるのと、周りの魔物を殲滅したのは、ほぼ同時だった。


「やっと、終わったんですか……?」


 戦いに参加していたシヘンは疲れ果て、杖を支えにその場に座り込んでしまう。


「はぁはぁ、きっつかったー……」


 ケイもそんな事を言いしゃがみこんだ。




 翼竜との戦いから二日後、ようやく街に軍の配備が出来たらしい。


「此度のご活躍。流石です」


 冒険者ギルドでマルクエン達はギルドマスターと向かい合っていた。


 マルクエン達は『竜殺しのパーティ』として、称賛され、同時に恐れられる。


「いえ、軍も配備出来ましたし。私達は旅を続けたいと思うのですが」


 マルクエンの言葉に、ギルドマスターは目を伏せる。


「魔王討伐……。でしたか」


「えぇ」


 本来であれば応援をしたいところだが、魔王討伐とは死を意味する様なものだ。


 とても「頑張ってください」と送り出すことなど出来ない。


「今回の件は、それこそAランクの冒険者の活躍に匹敵しますが。私に出来るのはマルクエンさんとラミッタさんのランクをCに上げることぐらいです」


 冒険者が飛び級でランクを上げるには、ギルドの本部で特別な許可がいる。


「ありがとうございます。充分です」


 そう言ってマルクエン達は部屋を後にした。


 街を出る際、大勢の人がマルクエン達を惜しみながら送り出してくれる。


「何か恥ずかしいですね」


「私も照れくさいッス……」


 むず痒いものを覚えるシヘンとケイをよそ目に、ラミッタは澄ました顔をし、マルクエンは街に手を降って旅路を歩んでいった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?