「ある日、街で喧嘩して大暴れした時、兵士まで出てきて捕まったの」
ふとラミッタは遠くを見つめ、話し続ける。
「そこに、たまたま居たスフィン将軍に目を付けられてね、牢獄行きか軍に入るかを迫られたわ」
「あのスフィン将軍か」
マルクエンも名前は知っていた。ルーサの女将軍スフィン、ラミッタと同じ凄腕の魔剣士だ。
「それで私は軍に入ることを選んだわ」
「そうだったんスねー……」
ケイもシヘンも真剣にラミッタの話を聞いていた。
「これでも戦いのセンスはあったみたいでね。剣も魔法も、戦場での生き残り方もスフィン将軍直々に叩き込まれたわ」
「それで、私は戦場に
寂しげな表情を見せるラミッタ。マルクエンはあえて触れずにいた。
「国に忠誠は無かったけど、戦うことによって私は居場所を得られたわ。死んだら死んだで、それはそれで良いと思っていたの」
「ラミッタさん……」
戦いに明け暮れるラミッタを想像して、切なくなるシヘン。
「それで、あの戦争が起こった。スフィン将軍も死んだわ。情がなかったと言えば嘘になるけど、悲しくて泣くことはなかった」
イーヌ王国とルーサの戦争をラミッタは思い返す。
「ただ戦う日々、そこで宿敵、あなたに出会ったわ」
「私も、初めてラミッタに出会った時の事は覚えている。噂には聞いていたが、とんでもない強さだった」
「そうね、私は当面の生きる目的が出来たわ。宿敵をこの手で倒すことね」
言ってラミッタは自身の手を強く握る。
「正直言って、楽しかったわ。手応えの無い敵とは違って、本気で命のやり取りが出来る相手が居て」
「私も、戦争で不謹慎かもしれないが、ラミッタと戦うことは楽しみだった」
「まぁ、私、負けちゃったんだけどね」
いつもの威勢が無く、フフッと笑うラミッタ。
「私は自分と居場所を守るために戦ったわ。戦って守ることしか知らないの」
そこまで聞いてシヘンとケイは、なんて言葉を掛けて良いのか分からずにいた。
「戦わなければ守れない、それは確かかもしれない」
マルクエンが口を開き、全員がそちらを見る。
「だが、ラミッタ。今は……、お前の居場所はここにある。俺は頼れる仲間だと思っている」
「本気なの? 私達、殺し合いをして、実際お互い死んでいるのよ?」
「あぁ、そうだとしてもだ。今は仲間だ」
「私も、私もラミッタさんの味方です!!」
マルクエンに続いてシヘンも言い放った。
「あー、私もそうっスよ。一緒に居た時間は短いッスけどね」
その言葉達を聞いて、ラミッタは目に熱いものが込み上げてくる。それを見られぬ様にそっぽを向いた。
「なに恥ずかしいこと言ってんのよ」
少し大きな声で言った後に、小さい声で続ける。
「でも、まぁ、悪くないわ……」
マルクエン達は目を合わせて笑顔を作った。
「あーもう、疲れたわ。寝ましょう」
そう言ってベッドに飛び乗るラミッタ。部屋の灯りが消えて、四人は眠りについた。
部屋に柔らかな朝日が差し込む。昨日あんな事があったというのに、気持ちの良い晴れ空だった。
一番乗りでシヘンが目を覚ます。うーんと伸びをして起き上がった。
皆を起こして回り、朝食を摂ると、宿屋を後にする。
街は静まり返っていた。昨日魔人の襲撃があったのだ。無理もない。
「何か残ってないか、家を見に行くか」
「そうね」
昨日は暗くて分からなかったが、何かしら残っているかもしれないと、マルクエン達は家へ向かう。
真っ黒になり、崩れ落ちた家の前へやって来た。
火は何もかもを焼き尽くしたらしく、残っているものは何もない。
「何も……、無いッスね……」
ケイは惨状を見てポツリと呟く。
だが、落ち込んでは居られない。魔人の残していった箱を確認しに行く。
「いち、にい、さん……。全部で十四個か」
箱の数を数え、マルクエンは頭を抱えた。一つでも厄介なのに、それがこんなにもある。
「それに、このバカでかい箱は何なのよ」
ラミッタが指差す箱は、他の箱より大きさが五倍ほどあった。
「大きいって事は、大きな魔物が出てくるのかもしれないな」
思ったままのことを言ってみるマルクエン。
「目的は何なのでしょうか……」
「魔王の目的は人類を滅ぼすことでしょ? その部下なんだから同じなんじゃない?」
ラミッタはビクともしない箱に蹴りを入れて言う。
「これだけの数、私達で対処できるだろうか?」
「あら、自信なくしたの宿敵?」
「いや、流石にな」
弱気になるマルクエンだったが、ラミッタは強気だ。
「こんな箱さっさと壊して、あのふざけた魔人に落とし前付けさせるわよ」
それに押される形でマルクエンも自分に喝を入れた。
「あぁ、そうだな」
街に戻ると、やけに視線を感じることにマルクエンは気付いた。
魔人の襲撃から二度も街を守ったのだ。冒険者だけでなく、噂の広まった一般の住民からも注目をされている。
マルクエン達は冒険者ギルドへ向かうと、新たな活動拠点。家を紹介された。
前の家も立派だったが、それよりも少しだけ豪華な所だ。
なんでもマルクエン達の功績を知った街の富裕層が提供してくれたらしい。
「いやー、良い家ッスねー」
「そうね」
マルクエンは一人、難しい顔をしていた。シヘンがそんな様子を見て話しかける。
「マルクエンさん、どうかしましたか?」
「いえ、次に魔人が現れた時どう戦おうかと考えていまして」
そう言っているマルクエンにラミッタが声をかけた。
「そんなの、なるようになるわよ」
「あぁ、そうだな」
マルクエンも今だけは緊張を解いて、眼の前の紅茶に口をつける。
早速くつろぎ始めるケイ。ラミッタも同じくソファに座っていた。